田中良太

 金権政治家の自己正当化に終始した小沢氏の会見(1月26日号)。
 24日、東京地検特捜部の任意調べを終えた後の、小沢一郎氏の会見をテレビなどで見て、驚いた。国民が聞きたいことは何も明らかにされなかった。小沢氏が一方的に「国民への説明になった」と言い放っただけだ。小沢氏の論理で「団結」する民主党は、参院選敗北――政権崩壊という最悪のコースを突っ走ろうとしているのではないか?

 田中角栄、金丸信両氏という、日本の金権政治をつくった偉大な政治家の弟子が小沢氏である。さすがに金丸巨額脱税事件で、金権政治は終わるはずだった。しかし小沢氏は、インチキ「政治改革」を主導することによって、国から政党助成(年額300億円を超える政治業界への税金投入)を出させる、新時代の金権政治を築いた。その時代の「稼ぎ頭」となって、ダーティーな拝金政治を展開した。さすがに特捜検察は見逃さず、昨年3月の西松建設違法献金以降、追及を始めた。それでもなおかつ小沢氏は、生き延びようとあがいているのが、検察vs金権政治の戦いの現状だろう。

 民主党は、特捜検察の動きを「弾圧」ととらえることによって団結しようとし、メディアの見方も、金権政治家に甘い。これでは政治全体が救いようのない堕落の淵に沈んでしまいそうだ。

 小沢氏が会見で語ったことは、問題の土地購入資金は小沢氏個人が用立てたということだけだ。小沢氏個人のカネで買ったのなら、その土地を買ったのは小沢氏だったとして手続きすればいいはずである。小沢氏個人のカネで買った土地が、どうして陸山会のものとして登記されたのだろうか?

 今月16日付「しんぶん赤旗」によると、陸山会は10件の不動産を保有し、事務所や秘書の宿舎、資料の保管場所などとして使用しているという。08年の政治資金収支報告書によるとその一覧は以下のようになる。


 物件          住所     取得時期   購入価格

 1.マンション・駐車場  港区元赤坂 94年5月 1億5138万円
 2.マンション       港区赤坂  94年12月  1650万円
 3.マンション       港区赤坂  95年1月 1億7000万円
 4.マンション       港区赤坂  99年1月   2410万円
 5.事務所         岩手県奥州市 99年11月 4200万円
 6.マンション       港区赤坂 01年1月    3264万円
 7.マンション       港区南青山 01年12月  3320万円
 8.事務所         仙台市青葉区 03年3月  3000万円
 9.事務所         盛岡市    03年3月  2650万円
 10.秘書寮        世田谷区深沢 05年1月3億9795万円
 (金額は土地・建物合計、万円以下切り捨て、4、6は売却済み)


 これらはいずれも、陸山会が政治資金で購入したものとされ、陸山会代表の小沢氏名義で登記されていた。陸山会の政治資金は、小沢氏が支部長を務める政党支部などを経由して入ったものだと説明されていた。

 小沢氏側は、いずれの不動産取得についても「政治活動に必要だった」と説明している。しかし民間のコンサルタント会社に賃貸後、不動産の再開発をおこなう建設会社に売却したワンルームマンションなど、政治活動との関係が疑わしい物件もある。

 07年初めには、陸山会が12件の不動産を保有していることが表面化し、疑問の声があがった。同年2月、小沢氏は疑問を打ち消すための記者会見を開いた。この会見で小沢氏は、小沢氏個人と、陸山会(代表=小沢氏)との間で結ばれた「確認書」を出席者に示した。確認書の内容は、「小沢氏個人は、これらの不動産についていかなる権利も有さない」と明記したものだった。

 政治団体である陸山会の名義では登記できないので、代表者である小沢氏個人のものとして便宜上登記したと説明したのである。小沢氏の政界引退後どうなるかという質問については、「後進の政治家育成活動などに生かしたい」と説明した。

 このときは、小沢氏個人が不動産売買をしているのでは、政治家が利殖をはかっていると批判されかねないとおそれた。しかし不動産購入の経費が、政治資金の枠内では出てこないことが問題になった今回は、小沢氏個人の資金で購入したことをあっさり認めた。
 小沢氏は個人のカネで不動産を買ったのに、政治団体のものであるよう装ったということになる。個人で不動産を買って利殖をはかるより、政治団体の不動産であるかのように装った方が悪質ではなかろうか。

 07年2月の記者会見が正しくても、今回(10年1月24日)の記者会見の方が正しくても、政治家・小沢氏が不動産取り引きやっていることは間違いない。
 その小沢氏は、ゼネコン大手として知られる「鹿島」と深い付き合いがあった。有力な政治家とゼネコン大手の連携によって、北東北3県(青森・秋田・岩手)の公共土木工事入札について「天の声」を出せる立場にあったとされる。
 小沢氏の師である政治家、田中角栄・金丸信両氏(いずれも故人)の場合も、ゼネコンとの接触は深く、かつ広かった。2人とも全国の公共土木工事について「天の声」を出すことができたとされる。

 小沢氏はこうした属性を持つ政治家なのだから、秘書に対して、ゼネコンとの関係で潔癖さを保つよう、きびしく指導、監督すべきだった。
 24日の記者会見で小沢氏は、自分自身については「不正な金を受け取ってはいない」と断言した。秘書について「(受けとっていないと)信じている」と言うだけだった。その前段に厳しい指導・監督という言葉が出ないのでは、じっさいには「もらえるものはもらっておけ」という姿勢だった可能性が強い。

 小沢氏が記者会見で上手に言いつくろうのは分かるが、最近の新聞記者さんたちが厳しい質問を発しないのにもあきれる。どうして07年2月の記者会見に言及した質問が出なかったのか、不思議で仕方がない。
 それよりも驚くのは民主党の反応である。小沢氏の会見で「国民への説明責任が果たせた」などとんでもない独りよがりと言うべきだろう。「国民への説明になっていない」と言い出せば、党内が分裂するという恐怖があるのかもしれない。しかし分裂が必要な状況下で、単なる「一致結束」に固執するなら、組織は死滅にまで至る。

 人体の病気に例えると、重度のガンや壊疽のときに、切除手術をしないようなものである。小沢氏は何故か民主党に入り込んできた、重度のガンのようなものだ。検察の強制捜査は、荒っぽい外科手術のように見えても、いま必要なのだ。
 
 
◇記者の「ブログ」「ホームページ」など
 空気を読まない
 http://www.mag2.com/m/0000024557.html