沖縄県の名護市長選で、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対し、県外移設を主張する新人の稲嶺進氏が、受け入れ容認派の現職を破った。
稲嶺氏は当選を受けて、「辺野古の海に基地を造らせないという約束で(選挙を)戦った。公約を、信念をもって貫く」と語った。
普天間受け入れが争点になった過去3回の市長選では、いずれも条件付きながら容認する候補が当選していた。政権交代によって「県外」を模索する鳩山政権が誕生したことも追い風になったのだろう。明確に受け入れ反対を掲げた候補の勝利は初めてである。移設問題に与える政治的な影響は極めて大きい。
鳩山由紀夫首相は、選挙結果が移設先の検討に影響する可能性に言及していた。また、政府・与党の沖縄基地問題検討委員会は辺野古以外への移設を前提に検討を始めている。選挙の結果、仲井真弘多沖縄県知事も辺野古移設を前提に手続きを進めるのが難しくなった。辺野古移設の道は限りなく狭まったと言える。
外交・安全保障は国の基本政策であり、地方自治体選挙の結果に影響されるべきではないという原則論もある。しかし、移設先が再検討されているこの時期に「受け入れNO」を突きつけた地元の意思を尊重することも現実の政治には必要だろう。
鳩山政権には、選挙結果をどう受け止め、どんな方針で移設問題に取り組むのか、明確にしてもらいたい。
普天間移設の原点は飛行場周辺住民の危険・生活被害の除去であり、移設が暗礁に乗り上げて「普天間」が固定化することは何としても避けなければならない。同時に、移設先選定では、米軍基地が集中する沖縄県民の負担軽減と、米軍のプレゼンスによる抑止力の維持を両立させることが求められている。
沖縄基地問題検討委は、県外を含めて視察・検討を進めているが、具体的な候補地の選定に苦慮しているのが実情である。そして、米政府は公式には辺野古への移設を内容とする日米合意の履行を求める立場を繰り返し強調している。国内の調整に日米外交が絡み合って、鳩山政権の対応は極めて難しい。
政界が「政治とカネ」問題に翻弄(ほんろう)され、小沢一郎民主党幹事長の発言力が弱まれば、鳩山政権の意思決定能力は一層低下しかねない。首相が表明した「5月までの決着」に懐疑的な見方も出ている。
しかし、先の日米外相会談で「5月決着」は対米公約となっており、これをほごにするようなことになれば、日米関係が一層悪化する可能性もある。普天間問題解決が日米同盟深化の試金石になると明言した鳩山首相の言葉を信じたい。
毎日新聞 2010年1月25日 2時35分