日本航空が会社更生法の適用を東京地裁に申請、企業再生支援機構の下で再建に向けて第一歩を踏み出した。
主要な債権者から事前に合意を取り付ける「事前調整型」の法的整理で、米政府が自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)に適用した手法だ。
1兆円もの公的資金枠を使って日航の財務改善を目指すのは、ひとえに国民の空の足を守るためだ。徹底した自助努力が必要だが、空の安全こそ第一であることを肝に銘じてほしい。
日航の負債総額は事業会社としては過去最大の2兆円規模に達する。再生計画ではグループ全体の3分の1に当たる1万5700人を減らし、子会社も半減。金融機関は債権の約8割を放棄し、事業規模を縮小して経営効率化を図る。路線の再編整理は不可避だ。
これだけではない。政府保証付きの一部融資が焦げ付き、確定分だけで約440億円の国民負担が生じる。
再建がおぼつかなければ巨額の出融資は国民負担として跳ね返ることになる。徹底したリストラは必要だが、心配なのはその先が視界不良なことだ。
路線廃止など事業縮小を優先すれば利用客の減少は避けられない。安全の確保とサービスの質を維持しつつ、将来を見据えた増収策をどう描くのか。
日航が機構による支援をバックに運賃値下げに踏み切り、成長株のアジア地域に活路を求めることなども見越して、ライバルの全日本空輸は神経をとがらせている。公正で公平な競争環境は担保されなければならない。
計画ではジャンボ機を全廃し、小型化で燃費の改善を図るという。それには2千億円強の資金が要るが、民間銀行はつなぎ融資の再開に消極的だ。
新生日航の会長兼最高経営責任者(CEO)には京セラの稲盛和夫名誉会長が就任する。日航の安全対策を点検する第三者機関の座長で、作家の柳田邦男さんが「安全文化」と呼ぶ骨格は引き継ぎつつ、ぜい肉を落とした企業体質に改善できるか。三田工業(現京セラミタ)などの再建を果たした手腕で視界を切り開いてもらいたい。
法的整理までには紆余(うよ)曲折も経たが、政治の「55年体制」を崩壊させた民主党中心の新政権だからこそ可能となった選択と言えるだろう。
歴代の自民党政権下、甘い需要予測で空港が造られ、日航は採算の合わない路線への就航を求められた。一方で旧運輸省や国土交通省からの天下りを受け入れ、高コスト体質を放置したまま、苦しくなると政府の支援を仰ぐ。そんな政官業のあしき構造にようやく終止符が打たれた意義は大きい。
日航の路線廃止や減便は地方の足に大きな影響を与える。高速道路や新幹線の整備との整合性を含めた地方空港の在り方など、国が総合的な運輸行政の展望を示す好機とすべきだ。
[京都新聞 2010年01月23日掲載] |