きょうの社説 2010年1月24日

◎小沢幹事長聴取 検察も真価が問われている
 小沢一郎民主党幹事長への疑惑は晴れたのか、それともより深まったのか。東京地検特 捜部による事情聴取の焦点は、起訴に値する違法行為が立証できたのか、否かの一点に絞られる。

 小沢幹事長にとっては政治生命をかけた切所であり、ここを無事乗り切れば、たとえ元 秘書が起訴されたとしても今夏の参院選への視界が開ける。一方、小沢幹事長の関与が立証できなければ、特捜部の威信は揺らぎ、かつての栄光も色あせるだろう。取り調べの可視化の波が押し寄せるなか、検察も真価を問われている。

 小沢幹事長は聴取後の会見で、資金管理団体「陸山会」による土地購入をめぐる収支報 告書への虚偽記入について「全く把握していない。相談されたり、報告を受けたこともない」と自身の関与を否定した。土地購入資金の原資については、「個人事務所の金庫に保管していた4億円を貸し付けた」と説明し、ゼネコンからの裏献金の授受についても「事実無根」と述べた。刑事責任の追及を視野に入れる特捜部が、小沢幹事長の説明をどう聞いたのか、矛盾点や疑問点があったのかどうか、などは現時点では分からない。

 小沢幹事長が起訴を免れ、半年後に迫った参院選に勝利すれば、師匠の田中角栄氏すら 足元にも及ばぬ力を持つ。衆参両院で多数を制した民主党を束ねて、次期衆院選までの3年間で、この国の「かたち」を大きく変えてしまうだろう。

 検察を取り巻く環境も変わる。足利事件の再審公判で、捜査手法に厳しい目が向けられ ている時期でもあり、民主党が進める刑事訴訟法改正法案(可視化法案)の成立が早まるに違いない。警察や検察の捜査能力への影響が懸念され、ロッキード事件やリクルート事件のころのような国民の絶対的な信頼は、二度と戻らないのではないか。

 逆に小沢幹事長が起訴に追い込まれるようなことがあれば、激震は政界全体に及ぶ。民 主党は大きな傷を受け、結束が難しくなるかもしれない。再編含みで政界が流動化する可能性もある。小沢幹事長本人に及んだ捜査は、それほど大きな破壊力を秘めている。

◎画像診断で死因究明 装置担う人材養成も急務
 石川県警が大学や医療機関と連携して発足させた「死亡時画像診断(Ai)ネットワー ク」は、コンピューター断層撮影(CT)などを活用し、検視体制の不備を補う大きな役割が期待されている。これから求められるのは、そうしたネットワークを死因究明制度の中にしっかり組み込むことである。

 力士暴行死事件や児童虐待、連続不審死事件などで犯罪の見落としが大きな問題となっ ている。事故や病死にみせかける犯罪は後を絶たず、そうした卑劣な行為が闇に葬られれば同様の事件が繰り返される恐れがある。犯罪を見逃さない体制づくりは急務である。

 全国の警察が扱った遺体のうち解剖は1割弱にとどまっている。これまで検視官や警察 官が変死体の体表観察で事件性の有無を判断し、必要に応じて司法解剖に回していたが、体内の異状が分かる画像診断が普及すれば、解剖が必要な事例が特定しやすくなる。警察と大学、医療機関が連携を強化するなら、不足が指摘される検視官や解剖医、遺体画像を読影する専門医を含め、人材養成のネットワーク構築にもつなげたい。

 死亡時画像診断は、CTなどで遺体を撮影し、解剖前に事件性の有無などを判断する。 ネットワークは、県警と県医師会、金大、金沢医科大などが協力し、県警が医療機関にCTを依頼する際の書類を定型化するなどして迅速に実施できる仕組みを整える。

 画像診断の発達は目覚ましく、臨床では病気の診断、治療に欠かせぬ存在となっている 。その技術を死亡時にも応用できれば、より正確な判定に役立つ。ネットワークを軌道に乗せるためには、「最後の医療」とも呼ばれる死因究明の重要性について警察と医療現場が認識を共有する必要がある。

 警察庁は今月末に死因究明をテーマにした有識者研究会を発足させる。民主党は200 7年、警察庁に「死因究明局」を新設し、都道府県警には死因調査専門職員を配置する法案をまとめている。これらの構想もたたき台に、国は死因究明を疎かにしない制度づくりの道筋を早く示してほしい。