半導体製造
提言:日本に専業Siファウンドリを

第1回:日本の半導体メーカーの特徴

2010/01/22 00:00
瀧澤秀樹=ドイツX-FAB Semiconductor Foundries AG

 2008年第3四半期に始まった金融危機は,半導体需要の急激な低下を引き起こし,その後の半導体工場の稼働率は過去に例を見ないほどの落ち込みを見せた。さらに自動車産業の不振は,今まで安定成長を続けてきた車載半導体需要を急降下させることになる。そうしたなか,いち早く景気対策を実施した中国では民生機器向け需要が回復し,台湾の「××tek」という会社名に代表されるファブレス企業は急激に業績を回復した。

 これに対して日本の半導体メーカーの業績には,乗り遅れ感がある。これは,「安くてそこそこの性能と品質」という,今世界で最もニーズが強いジャンルにおいて,日本の半導体業界の食い込みが遅れていることによる。2009年第2四半期になると,最悪の時期は脱して稼働率は上向き,「フル稼働」という情報が入ってくるようになった。深刻な危機は去り,納期問題というありがたい問題に頭を抱えるようになった読者も多いのではないか。同第4四半期になって2番底が心配されているところではあるが,深刻な危機が去った。だからからといって,国内の半導体産業が抱える根本的な問題解決がされたわけではない。

 NECエレクトロニクスとルネサス テクノロジの統合に象徴される事業の再構築とそれに伴う工場統廃合が,大手半導体メーカーのみならず,中小半導体メーカーにおいても必要になっているのではないか。筆者は,Siファウンドリ業界に携わって15年が経とうとしている。本来ならこのような主張をする立場にはないかもしれない。しかし,この提言が日本勢復活に向けた議論を活発にすることを期待し,筆を取ることにした。

 以下,Siファウンドリ業界から見た国内半導体メーカーの特徴と,さらには半導体製造の側からみた事業再構築の必要性について,気付いた点を4回にわたって述べさせていただきたい。

世界最大の生産能力を持つ日本

 国・地域別の半導体生産能力について比較した最近のデータを見ると,世界最大の生産能力(ウエーハ処理枚数)を保有する国は日本だ(図1)。筆者は,台湾だろうと推測していたが,実際には日本が世界最大の半導体生産国である。ウエーハ径別に国・地域別の生産能力を比べると,顕著な差が出ていることが分かる。125mm(5インチ)または150mm(6インチ)においては,日本の半導体メーカーの抱える生産能力の比率が大きい。古い工場を多く保有していることが分かる(図2)。

図1 地域別の半導体生産能力
Source: The 2009 Edition of the Global Wafer Capacity Analysis & Forecast from IC Insights
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図2 ウエーハ径別の半導体生産能力
Source: The 2009 Edition of the Global Wafer Capacity Analysis & Forecast from IC Insights
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 次に1社当たりの生産能力に注目したデータを見よう。垂直統合型半導体メーカー(以下IDM)であってもメモリーやマイクロプロセサを手掛けているメーカーは,1社当たりの生産能力が大きい。その一方,マイクロプロセサ以外のロジックやメモリーを手掛けるメーカーは2万枚/月と小さい。日本では,メモリーやマイクロプロセサの専業メーカーがほとんど存在しない。専業Siファウンドリもほとんどない。この結果,1社当たりの生産能力はアジアの国・地域の中で最小である(図3)。

図3 1社当たりの半導体生産能力
200mmウエーハ換算での月産能力
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 以上,三つのデータからいえることは,日本の半導体メーカーはウエーハ径の小さい古い工場を多く維持し続けており,その1工場当たりの生産能力量も小さいということだ。

ファブレス企業は少ない

 さらに半導体工場を持つ日本メーカーの数は実に37社もある。一方,海外で一般的になっているファブレス企業を日本で探すと,メガチップス,ザインエレクトロニクス,トレックス・セミコンダクターなど非常に少ない。これは,日本市場のもう一つの大きな特徴である。日本と同じく大手IDMが多数を占めるという環境にあった隣国の韓国では,1998年の金融危機以降,多くのファブレス企業が立ち上がり,最近では大きな成功を収める企業が出てきている。

 古くて生産能力の小さな工場を維持し,垂直統合型の事業形態を採る日本の半導体メーカー。設備投資面ではどのような特徴があるのだろうか。売上高の下位メーカーは,1990年代の200mm(8インチ)設備への投資,中堅メーカーでは2000年以降の300mm(12インチ)設備への投資余力によって,ふるいにかけられた。現在ではごく限られた上位メーカーのみが先端ラインへの投資をしている。つまり下位メーカーは1990年代から,中堅メーカーは1990年代後半もしくは2000年代初めから,それぞれファブライトへと戦略転換してきた。今回の金融危機の前後には,300mm工場に投資をした上位メーカーでさえ,ファブライトへ方針を転換し,設備投資額は激減している。

 しかしながら,日本の半導体メーカーは保有している工場については,大胆な統廃合をせずに維持し続ける企業が多い。また,個々の工場は設備更新を続けることで微細化を進めてきた。この動きは,特に中堅メーカーに見られ,150mmの250nmや180nmなどといった,海外では非合理的といわれるような設備更新がなされている。こうした点も日本企業の特徴といえる。

 次回からは,半導体メーカーを大手,中堅,小規模の三つに分類して,それぞれの工場の保有状況と抱える課題について分析し,今後の方策を述べたい。