「エネルギー資源を理解するには、その評価基準としてエネルギーの出力/入力比が本質的である。EPR(Energy Profit Ratio)、EROI(Energy Return on Investment)などだが、残念ながら、日本では殆ど知られていない。この指標はエネルギー資源を評価するに、欠かすことの出来ない重要性を持っている。殆どの巨大油田はEPR60と高い。オイルピーク時1970年頃のアメリカの油田は20と低い。それも1985年は10を下回る。今では3程度に落ちているそうである。同じ石油資源もこのように、EPRの値は大きく異なる。同じ油田でも生産とともに、EPRは変化する。勿論低下する」石井先生の言葉です。
本エントリーでは、EPRの変化が具体的にどの様な影響を石油価格に与えるのかを考察してみます。
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上記の図はIEAが2004年に発表した世界の石油生産見通のグラフに基づいています。
EPRとはエネルギーの利益率の事で、次の数式で計算します。
EPR = 出力エネルギー / 入力エネルギー
現在の生産の能力(既存油田の一次回収)で賄えた2000年と、2010年、2020年を比較してみます。
計算式
石油日産量 × EPR /(出力 + 入力)= 実際に得られる石油の量
2000年
75mb × 10/(10 + 1) = 68.18mb
2010年
(90mb×56%×6.31/(6.31+1))+(90mb×30%×3/(3+1))
+(90mb×14%×2/(2+1))= 72.15mb
2020年
(90mb×24%×3.98/(3.98+1))+(90mb×47%×1.89/(1.89+1))
+(90mb×29%×1.26/(1.26+1))= 59.47mb
この結果をプロットしたのが上図の緑の線です。
2000年に1バレルを得るためには0.091バレルの入力が必要でしたが、
2010年には0.198バレルと2000年の2.18倍、
2020年には0.439バレルが必要で 2000年の4.82倍のエネルギーが必要になると言うことです。
これをもとに原油価格を想定すると凡そ入力エネルギー比の二乗に比例する位の価格比になりそうです。(2000年からの実績ではこの上に乗っています)
2010年にはバレル95ドル、2020年にはバレル464ドルです。
勿論確実なものではありませんが、傾向はつかめていると思います。
さて、御覧の通り、EPRの変化を考慮に入れると見かけの生産量がIEAの見通しの様に増加しても、実際に得られる石油の量は2010年辺りのピークから減少する事がわかります。
EPRの数値と減少率はあくまで仮定ですが、関係資料から推察して導き出した物です。傾向を掴むことは出来ると思います。
IEAの見込みでは特に、既存油田の二次回収、三次回収(EOR)、の急激な増産を前提としています。
しかし、どの様な油田もその性状から石油の生産と共に内圧が低下します。故に人工採油、油井の増量等の手当てが必要になります。すなわち、出力エネルギー(生産量)の維持、向上の為に入力エネルギーの増加が必要な事は明白な事実です。
ここでおさらいです。
石油減耗とはどういうことか よく「石油の枯渇」という言い方をしますが、専門的には石油減耗=Oil Depletionというようです。どうして「枯渇」と言わず「減耗」というのか。
貯留岩には小さな隙間がたくさんあり、その中に石油が入っている
そもそも石油はどうやってできたのか。海中のプランクトンなどの有機物が海底に堆積し、それが砂や泥で覆われ、有機物が重なりあったケロジェンと呼ばれる物質になると考えられています。それが大陸の移動などの地殻変動によって、特殊な地層の中に閉じこめられ、圧力をかけられながら組成変化していきます。背斜構造というか帽岩という山形の蓋になっている岩の下で、根源岩と呼ばれる泥岩とか炭酸塩岩中で石油系炭化水素へと変化していくのです。
このようにしてできた石油は地下の圧力で上へ上へと移動しますが、背斜構造という特殊な地形のもとにあるわけですから、上にはガスが溜まり、真ん中に石油、その下に水が貯まるという構造になるわけです。
こうした構造からして、石油は上の地盤に穴をあけると、最初は油層に貯まった圧力で自噴します。これを石油業界では一次回収と言います。しかし、どこの油田でも、だいたい石油の層の中の20〜30%ぐらいしか自噴しません。従来は自噴しなくなった時点でその油田はお終いだった。それではあまりに効率が悪い。20〜30%しか回収されないわけですから、地中にはまだ何十%も石油が残っている。
そこで二次回収が考えられるようになります。二次回収というのは、油田に水(海水)を注入したり、ガスを押し込んだりして回収率を高めようというものですが、この二次回収によっても30〜40%しか回収できない。
さらに石油の回収率を上げようと、三次回収も考えられています。三次回収の方法には、熱攻法とかケミカル攻法とかガスミシブル攻法とかいうのがあって、水蒸気を注入したり、界面活性剤を注入したり、炭化水素ガスや炭酸ガスを油層内に注入して、ガスと原油が完全に混ざった状態(ミシブル状態)になったものを回収する方法などがあります。
さらには原油を汲み上げる井戸も、真っ直ぐに掘るだけではなくて、垂直に掘った後、さらに横に掘っていく水平坑井とか、それを何本も掘るマルチラテラル井などが試みられています。
しかし、そうやって回収したとしても、結局人間が回収できる原油というのは、その油田の全埋蔵量の50%程度、最高でも60%程度にすぎない。三次回収までやっても、だいたい40〜60%ぐらいしか回収できない。地中の油層から人間が人為的に採掘できる原油は最大でも60%であり、あとの40%は回収できずに残ってしまうのです。
ここからオイル・リカバリー(回収)が問題になるわけですが、問題はコストです。残った原油を回収するのには、もの凄いコストがかかってしまい全く採算がとれなくなります。EPRで言えば、残った原油を回収するために必要なエネルギーと、回収される原油のエネルギーを比較するということになります。
そこから石油の専門家は、「枯渇」ではなく「減耗」Oil Depletionと言うようです。油田の全埋蔵量の中で、資源として有効に回収できるものは限られている。「残っているけど、もう人間には利用できない」、これが一つの肝になることです。これが石油減耗ということの意味で、覚えておく必要があります。
参考:
EPRで解るピークオイルの本質 すすむ既存油田の劣化、生産量が増えても実入りは減少する?!
投稿者 Y 石油減耗で現代物質文明は崩壊する
:
エネルギー問題はEPRで考えるのが肝
:
国際エネルギー機関
(International Energy Agency : IEA)
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