消費低迷の直撃を受けてデパート業界が苦境に陥っている。
日本百貨店協会によると昨年の全国の百貨店売上高は6兆5842億円で、1985年以来24年ぶりに7兆円を割り込んだ。ピークだった91年の約9兆7000億円に比べ3割も減った。
商品項目別にみてもすべての商品が振るわない。デパートの看板商品だった宝飾・貴金属や婦人服の売り上げが30カ月以上も前年を割り続けている。「デパ地下」として人気を集めていた総菜は19カ月連続のマイナスで、不況にも強いと言われてきた化粧品も13カ月連続で落ち込んでいる。大勢の人でにぎわっているように見えるデパ地下も、商品単価を下げないと売れず、売り上げを伸ばすのは難しいようだ。
この苦境は不況の影響だけでなく消費行動の変化に伴う構造的なもので、景気が上向けば好転するというわけではなさそうだ。
このため、経営の効率化に向けて大丸・松坂屋、伊勢丹・三越といった統合が進む一方、各地で店舗の閉鎖が相次いでいる。昨年はそごう心斎橋(大阪市)や池袋三越(東京都)、飯塚井筒屋(福岡県)など9店、今年も大和長岡店(新潟県)や松坂屋岡崎店(愛知県)など少なくとも8店が閉じる。
「事業として時代遅れでは」との厳しい見方もあるが、挽回(ばんかい)の余地がないと片づけるのは短絡的だ。
振り返れば日本の業界は独自の付加価値を編み出し、欧米以上に発展してきた。屋上の遊戯施設や大食堂、美術展などで人を集めたり、外商や中元・歳暮のギフトなどの手法を考え出した。デパ地下も独自のアイデアだ。業界の歴史は「革新」の歴史でもあった。これからも手をつけてこなかった商売の種を見つけ、培ったノウハウを生かせば、新たな道が見えてくるはずだ。
年齢や性別を超えて幅広い層を引き寄せる力も大きい。今でも、デパートは人が集い、行き交う貴重な場だ。いくら繁盛しても単品商売のカジュアル衣料店に、そんな力はない。だからこそ、地方での店舗閉鎖に根強い反対運動が起きる。
地方都市では今、歩いて暮らせる「コンパクトシティー」の発想に基づき、中心市街地に人を呼び戻す動きが始まっている。デパートが行政の窓口や病院、生活に関係する施設などを併設することで、新たな動きの中核を担うことは可能なはずだ。
厳しい環境の中で、経営の効率化は欠かせない。ただし縮み志向ではだめだ。潜在能力を再認識し高めることで、単なる物品を売るだけの商売にとどまらない存在価値を磨いてほしい。
毎日新聞 2010年1月24日 東京朝刊