現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

小沢氏聴取―まだ残る数多くの疑問

 小沢一郎・民主党幹事長が、自らの資金管理団体「陸山会」による土地取引をめぐる事件に関連し、東京地検特捜部の事情聴取に応じた。石川知裕衆院議員ら小沢氏の側近3人が逮捕された事件は、最大の山場を迎えた。

 聴取に応じたのは、検察の要請から半月以上もたってからである。4時間を超える事情聴取を終えた小沢氏は記者会見し、初めて自らの口で事件について説明した。だが、なお多くの疑問が残った。

 石川議員らの容疑は、陸山会が5年前に東京都内の土地を買った際、資金の4億円を収支報告書に「収入」として記載しなかったことだ。

 東京地検が小沢氏からの聴取を要請したのは、次のようなことを明らかにする必要があったからだ。

 まず小沢氏が、この容疑にどの程度かかわっていたのか。次に、小沢氏が貸し付けたというこの資金を、小沢氏はどこから工面したのか。特にゼネコンからの資金が入っていたのかどうか。最後に、土地取引に絡む複雑なカネの動きは結局、一種の資金洗浄だったのではないか、ということだ。

 小沢氏は会見で、こう説明した。資金は自宅を売却した残金や家族名義の口座から引き出し、事務所の金庫に保管していた4億数千万円の一部だ。資金の事務処理や収支報告書の虚偽記載については関与していない。

 しかし巨額の資金を長年、現金で置いていたことは常識では理解できないし、家族名義の預金のもとの出どころも不明だ。多額の利子負担を顧みず、4億円の預金を担保に銀行の融資を受け、それで土地代金を払ったように見せかけたことも知らなかったという。

 東京地検は、小沢事務所が東北の公共工事をめぐり、ゼネコン談合組織の受注調整に強い影響力を持ち、多額の政治献金を集めていたとみている。

 岩手県の胆沢ダム建設工事を下請け受注した中堅ゼネコンの元幹部から、石川議員らに計1億円を提供したという供述も得ているという。このうちの5千万円は土地取引の前に石川議員に渡され、その直後に陸山会の口座に同額が入金されているという。

 資金洗浄を疑わせるカネの動きは、こんな疑惑を隠すためではなかったのか。東京地検が解明に力を入れているこの点について、小沢氏は「不正な裏金など一切もらっていない」とした。なお捜査の進展を見守るしかない。

 有権者がこの事件で民主党への失望を感じているのは、小沢氏本人の関与のいかんにかかわらず、自民党時代と同じような「コンクリート政治」が、小沢氏周辺で続いていると感じているからだ。

 国会で野党は、小沢氏に説明を求める構えだ。民主党はこれで一件落着とせず、堂々と応じるべきである。

中国の高成長―隣国の活力生かす道を

 中国の2009年の国内総生産(GDP)は、前年比8.7%の伸びとなり、日本に肉薄した。より高い成長が見込まれる今年は、日本を追い抜くことが確実視されている。

 巨額の公共投資に加え、自動車や家電などの消費奨励策、金融緩和策が効果を発揮し、国家目標の「8%成長」を達成した。中国の財政金融政策の威力を見せつけた。

 自動車は生産・販売とも世界一になり、上海株式市場の売買代金は東京を抜いて世界3位である。勢いづく中国は、世界経済のエンジンとして期待を集める存在になった。

 だが、高成長も一皮むけば、危ういバランスの上にあることがわかる。

 最大の不安要素は、景気刺激策の副作用だ。公共事業を担う国有企業に、国有銀行から巨額の資金が流れ込んだ。輸出競争力を維持するために人民元の対ドル相場を安く据え置く「元売りドル買い」介入により、市中に資金がだぶついている。これらが株式や不動産の相場をつり上げた。

 住宅価格の上昇に対する国民の不満がくすぶり、この先、消費者物価が上昇すれば生活を圧迫する。

 景気刺激策の8割程度を鉄道や道路、港湾などの公共投資が占め、公害や資源の浪費が懸念される。

 こうした副作用を抑えるため、中国政府はいずれ金融引き締めなどで景気対策からの「出口」を探らざるをえない。バブルの芽を摘み、過度の輸出依存から脱するには、人民元の対ドルレートの切り上げも必要になる。

 同時に大切なのは、内需を拡大しつつ国民の所得格差の是正に努めることだ。それが対外不均衡や社会のひずみを是正するのに役立つ。

 具体的には、一人っ子政策による少子高齢化が本格化する前に社会保障制度を整えたり、賃金を引き上げたりして国民の生活水準を高め、消費のすそ野を拡大する必要がある。

 環境と調和した生活を実現するためにも、国際社会から求められる温暖化対策に力を注ぐ。そうして成長の質を高める。それらも今後の課題だ。

 日本にとって、中国はすでに米国を上回る最大の貿易相手だ。2万社を超える日本企業が進出する投資先でもある。「世界第2の経済大国」の看板を譲り渡す日本は、決して将来を悲観すべきではない。むしろ、この伸び盛りの隣国の活力を、日本の経済成長につなげる方法を考えるべきだ。

 そのためには、貿易や投資を円滑にする経済連携協定(EPA)の交渉を本格的に推進しなくてはならない。

 製品やサービスの交流だけでなく、社会保障の制度づくりや環境技術をはじめとする日本の知恵で、中国の経済成長の新段階を開くことは可能だ。それを日本の未来図に生かしたい。

PR情報