ゴールドマン・サックスのブランクファイン最高経営責任者(CEO)が21日発表した2009年通期の純利益は、過去最高の134億ドル(約1兆2000億円)だった。
ゴールドマンは、不良資産救済プログラム(TARP)の下で不本意ながら注入を受けた公的資金114億2000万ドルを既に返済している。さらに、64億ドルを納税して国民に貢献する見通しだ。
だが、オバマ大統領の意向が通れば、ブランクファイン氏はこの国で最も嫌われる男になる可能性が高い。
この国では、これが成功した者への処遇のようだ。われわれは成功を非難し、政治的に都合のいいばかげた施策で成功を罰する。銀行が自己勘定で行うトレーディングや投資に上限を設けるオバマ大統領の提案はその最たる例だ。
この国は、なぜここまで自己破壊が好きなのか。
われわれは団結しなくてはならないのに、ポピュリスト(大衆迎合主義)的な分裂が起きている。数百万の雇用が必要だという一方で、雇用を創出する(銀行)資本を破壊しようとしている。
どうか、「わかっていない」と責めないでほしい。「わかって」いるのだ。メーンストリート(サービス業や製造業)が苦戦していることは「わかって」いる。ウォールストリートが自己中心的で貪欲な人でいっぱいであることも。ウォールストリートがむちゃなトレーディングをしていることも。大き過ぎて潰せない銀行などあるべきでないことも。
しかし、ホワイトハウスがウォールストリートに仕掛けた新たな戦争が、こうした問題の解消に役立つと本気で信じている者がいるだろうか。少なくともわたしは信じていない。
これはマサチューセッツ州の補選での民主党敗北に絡んだ政争だ。この国の窮状に対する責任を、ワシントンがウォールストリートに転嫁しようとする戦いだ。
残念ながら、この戦争は、大衆受けしやすいという意味で、ワシントンに分がある。このことは、きょうのゴールドマンの控えめな決算発表を読むだけでわかる。
1株当たりでは違うにしても、ゴールドマンの利益は総額で過去最高を記録した。しかし、同社のプレスリリースからそのことはわからない。代わりに、報酬や手当てが07年から40億ドル(20%)減らされたことが強調されている。
何と歪んだ状況だろう。雇用創出の源泉は企業の収益だ。それなのに、国内有数の順調な企業が利益を恥じるように振る舞い、従業員への報酬を減らしたことを自慢するとは。
間違いなく、この戦争は米国に心理的ダメージを与えそうだ。それは、(大幅安となった)21日の株価が物語っている。この戦争がもたらす予測不可能な影響は、まだ表われ始めたばかりだ。
この規制案の検討が紛糾することは間違いない。大統領は、銀行・証券業務の分離を定めたグラス・スティーガル法の廃止や銀行の自己勘定トレーディングが08年の危機につながったように言っているが、実際はそうではないのだから。
レバレッジの高さが金融機関の脆弱性を強めたのは事実だ。しかし、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)は(オバマ大統領が規制を強めようとしている)預金受け入れ機関ではなかったが破綻した。リーマン・ブラザーズもベアー・スターンズも預金を受け入れていたわけではない。連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)や連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の数千億ドルの損失も、ワコビア、ワシントン・ミューチュアル、カントリーワイドの破綻も、自己勘定トレーディングとは何の関係もない。
危機の元凶は、支払い能力のない数百万の人々に住宅資金を貸し付けたことだ。だが、そうした指摘がワシントンから聞こえてくることは少ない。オバマ大統領が再選を目指すのであれば、銀行の自己勘定をやり玉に挙げてアメリカの資本主義の本質を否定するようなことはやめた方がいい。
(エヴァン・ニューマーク氏は『辛口でいこう』のコラムニスト)
原文: Mean Street: Obama is Killing America by Killing Wall Street