京都府高の見解・声明
憲法と教育基本法をゆがめる勝手な解釈で教職員の政治活動の自由を奪うことは許されない
2006年1月21日
京都府立高等学校教職員組合執行委員会
1月18日、京都府教育委員会は教育長名で「公の選挙における教職員の服務規律の確保について」という通達(以下「通達」)を各府立学校長宛に出した。
府教委は「従来と同様のもの」と説明しているが、府高は「憲法にも保障された教職員の政治活動・選挙活動に対する不当な規制であり、きわめて不当な『通達』である」と抗議し、その撤回を求めた。
- 異常な日本の選挙活動の規制
日本の選挙活動の規制は、諸外国と比較してもあまりに異常である。告示(公示)後の選挙期間中は、候補者カー・政策宣伝カー・拡声器使用・ビラ配布の制限、戸別訪問禁止等、告示(公示)以前よりもいっそう規制が強化される。選挙期間中に国民一般が自由に政策や要求、政見を主張し、他人に伝えることがきわめて困難にされている。本来選挙期間中こそ表現の自由が最大限に保障されなければならないのに、まったくそれに逆行する悲しい日本の実態である。そもそも、これらの改悪は、自民党政治の延命のために強行されてきたものである。
くわえて不当な公務員・教育公務員に対する政治的活動の制限規定がある。日本国憲法第21条は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定め、例外なくすべての国民に言論・表現の自由を保障している。この言論・表現の自由の中には、当然国民の政治活動・選挙活動の自由も含まれる。つまり憲法の条文によれば、教職員にも当然のこととして政治活動・選挙活動の自由が保障されているのである。 - 教職員の政治活動の自由の保障は国際的に当たり前
教育公務員の政治活動の自由は国際的にも当然保障されている権利である。国際人権規約B規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)は、市民的および政治的自由が例外なく当然保障されるべきことを定めており、ILO151 号条約においても、公務員も他の労働者と同様に「結社の自由の正常な行使に不可欠な市民権及び政治的権利を有する」(第9条)と定めている。さらにILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」でも、教員は当然一般に享受するいっさいの市民的権利を自由に行使すべきである(80項)としており、教職員・公務員に政治活動・選挙活動の自由を国民・労働者と同様に保障することが、国際的な常識である。日本政府がお手本にしているアメリカでさえ行政当局が教育者の政治活動を禁止してはならないとする立法がある。 - 公務員に対する不当な政治活動の法的規制
しかし日本では教育公務員の「政治的行為の制限」については、地方公務員法第36条の規定(刑事罰の規定はいっさいない)にもかかわらず、「当分の間」、国家公務員法第102 条で規定し、これを受ける形で人事院規則14-7が適用されている。ただし国家公務員とは異なり、罰則規程はいっさい適用されない。
人事院規則14-7による選挙・政治活動の「規制」は、アメリカの対日占領政策の転換にともなう政令201 号(公務労働者から不当にも争議権を奪う命令)とともに占領政策の遺物であ る。公務員の政治活動の制限強化は労働基本権の制限・剥奪と一体のものである。この人事院規則は、国家公務員の政治活動・選挙活動を詳細かつ包括的に規制するものであり、絶対主義天皇制のもとでの官吏服務規程にも例を見ない悪法である。しかも法律ではない一行政委員会にすぎない人事院の「規則」に禁止事項をほとんど白紙委任して公務員の基本的人権を大幅に「制限」し、刑罰規定(国公法110 条)まで設けている点が問題であり、手続法上の違憲非難が浴びせられ学説は圧倒的に違憲としている。
最高裁においても高松簡易郵便局事件について、「最高裁、辛くも合憲、3対2刑事罰で対立」(「朝日」)と報じられたように、裁判官の間においても意見が分かれ、辛くも合憲判断をしたものであり、当局が唯一のよりどころとする最高裁判決も確固としたものではないことは明らかである。 - 本来行政解釈でさえ制限的
このような国公法と人事院規則14-7の政治的活動の制限に対する非難を受けて、人事院は 「この規則を乱用しないことを第一義として、なるべく、強くしぼって解釈してきた」(浅井清人事院総裁<当時>『新版国家公務員法精義』)という事務総長通牒「人事院規則14-7の運用方針について」(以下「運用規定について」)を発した。
① 「運用方針について」は、「この規制が学問の自由及び思想の自由を尊重するよう解釈され、運用されなければならない」とした上で、人事院規則14-7の第5項の「政治的目的」について次のように述べている。
(1) 1号の「特定の候補者」とは公職選挙法上の正式の届出をへて候補者の地位をもつに至っ た者であり、届出前の予定候補者を支持(反対)してもこれにはあたらないし、候補者の推 薦届出もこれに該当しない。つまり告示日以降にしか問題とならないとしている。
(2) 4号の「特定の内閣を支持(反対)する」とは、特定の内閣が存続または成立する(しな い)ように影響を与えることをいうのであり、特定の内閣を批判(評価)することなどはこ れにあたらない。
(3) 5号の「政治の方向に影響を与える意図」とは、日本国憲法に定められた民主主義政治の 根本原則を変更しようとする意思をいう。
(4) 6号の「国の機関又は公の機関において決定した政策」の「実施を妨害する」ことには単 に当該の政策を批判するなどはこれに含まれない。
(5) 7号の「署名を成立させ」とは、条例改廃やリコールなどの請求を成り立たせるに必要な だけの署名を集めることをいっている。
② 人事院規則14-7の第6項の「政治的行為」についても次のように解説している。
(1) 6・8号の「勧誘運動」とは相当多数のものを対象として「組織的・計画的または継続的 に勧誘すること」(「運用方針について」)をいい、「投票勧誘あるいは入会勧誘をするこ とのそのものではない」とされ、個々の勧誘行為が禁止されているわけではない。行政解釈 でさえも「組織的、計画的、継続的、相当規模」を満たさない限り、「勧誘運動」にあたら ないとされている。親戚・友人・知人・卒業生や周囲の人たちに対して、出会った機会を利 用して投票を依頼することや、何かの用事で訪問した時に入会勧誘したりすることはまった く自由に行えることである。また電話で勧誘することも当然自由である。
(2) 5号の政党・政治団体の「結成に関与」とは、発起人や準備委員のように結成に推進的な 役割を果たすことであり、結成総会に参加し、発言することなどはこれに含まれない。また 「役員」とは、規約上、団体の代表者ないし執行責任者を指し、これ以外の構成員となって 団体の会合に出席し、発言することは制限の対象とならない。(行実1951年3月30日地自公 発118 号)職場や地域でつくられる「後援会」などは政治的要素も薄く会員の交流・懇親と いう意味合いが強く、国公法にいう政治的団体には含まれないと解すべきである。そのよう な「会」を職場・地域で結成したり、その呼びかけ人となることはなんら問題とならない。(3) 9号の署名活動に「積極的に参与する」とは単に署名を行うことなどはこれにあたらな い。3000万署名・教育署名・賃金改善署名など組合でとりくむ各種署名一般はこれにあたら ない。
(4) 10号についても、単にデモに参加することは全くさしつかえない。 - 矛盾だらけの国公法102 条・人事院規則14-7
しかも行政解釈でさえも、国家公務員法第102 条1項の規定に違反する政治的行為となるためには、この人事院規則14-7の5項に定める8種類の「政治的目的」をもっており、かつこの規則14-7の6項で定める17種類の「政治的行為」をなした場合のみ該当するとして禁止している。したがって「政治的目的」または「政治的行為」のいずれかを欠く行為は禁止されない。 1961年設置の政府審議機関である第一次臨時行政調査会答申(1964年)は「一方においては公務員も国民の一員であり、その政治的権利の行使はできるかぎり補償されなければならな い」としている。
これらの不当な公務員への規制を違憲とする判決も高裁を含めて下級審で数多く出されている。「処罰の対象となる政治的行為は、それが国家公務員の立場、換言すれば、国家公務員の地位に基づく行為でなければならない。蓋し、一私人としての行為まで国家公務員であるが故に処罰されなければならない理由はない」「非管理職の公務員の勤務時間外、勤務庁施設外 の、公務員の地位又は職務の関連性のない行為は、たとえ政治的目的を有する政治的行為であっても、国家公務員法の定める政治的行為の禁止に違反しない」(総理府統計局事件2審判決1972年4月5日) - 二重三重にも許されない憲法違反
しかるに京都府教委の「通達」は、教育公務員特例法18条を根拠に国家公務員法や人事院規則14-7を持ち出し、あたかも教職員は何もできないかのように思わせようとしている。しかし、この教育公務員特例法は、吉田内閣が元戦犯を文部大臣に、戦前特高警察などを動かした旧内務官僚を文部次官にすえ「偏向教育」攻撃によって教職員組合運動を弾圧してきた時期につくられたものである。この教育公務員特例法は、衆議院では教職員・国民の反対をおしきって強行採決されたが、教職員や国民からの猛烈な反対運動の高まりのなかで、参議院では修正を余儀なくされた。教育公務員特例法第18条が「公立学校の教育公務員の政治的行為の制限については、当分の間、地方公務員法第36条の規定にかかわらず、国立大学の教育公務員の例による」と定めているが、国家公務員法第102 条の罰則規定は公立学校教職員には適用しない(ただし懲戒処分の対象)となっている。「当分の間」の限定がつけられて50年近くがたとうとしている。まさに時代の流れにそぐわない条文であり「通達」であることは明らかである。しかも国家公務員法第102 条をみると、そこに内容はなく、人事院規則14-7に具体的な「制限」のなかみが定められているという極めて悪質で変則の、ずさんな立法手続きをとっている。文字通り二重三重にもおよぶ憲法違反といわざるを得ない。
教育公務員の場合、刑事罰の対象にならないということは、仮に抵触するとみなされる行為を行った場合でも警察を中心とする捜査機関が本人や関係者に捜査がなされる恐れがないということであり、行政処分を行おうとすれば任命権者(府教委)が独自に捜査機関の手を借りることなく調査をしなければならない。そのため行政当局の調査のみにもとづく処分がされたケースは全国どこでもほとんどないのが現状である。 - 公選法上制限されているのは地位利用のみ
公選法上公務員が特別に受ける制限は「公務員の地位を利用して」選挙運動をすること、学校(公立、私立を問わない)の教職員の場合には「学校の児童、生徒及び学生に対する教育上の地位を利用して」選挙運動をすることのみである。教育公務員の場合の「教育上の地位を利用して」とは、「生徒に対する成績評価権や懲戒権等、教育者として有する具体的な権限に基づく影響力を不当に利用して選挙人の義理人情に働きかけるといった実質を備えた場合のみを意味すると解する」(名古屋地裁判決1970年11月7日)としている。「父兄に対する選挙運動はすべてこれに該当するというものではない」(自治省見解)。電話による投票依頼が地位利用にあたるとして正式裁判をされた例は存在しない。
府教委の「通達」は、憲法にはいっさい言及することなく、「運用方針について」さえもつけずに、人事院規則14-7を資料として校長に送付し、「制約的事項」をことさらに強調し、あえて教職員の誤解を生みやすい表現にすることによって恣意的拡大解釈を期待し教職員の正当な活動をおさえこもうとするものになっている。これが憲法21条にも反することは明らかである。 - 教職員の政治活動の自由を制限することは許されない!
教育基本法前文は「憲法の理想の実現は根本において教育の力にまつべきものである」と宣言している。そのことからも、安易に教職員の政治活動を制約することは許されない。
判例も「政治活動の自由は、自由民主主義国家における最も重要な基本原理をなし、国民各自につきその基本的な権利のひとつとして尊重されなければならない」(最高裁判決1981年10月22日)と認めているところである。2000年6月の全教の文部省(当時)交渉において「教職員の選挙活動の禁止等について」の通知とかかわって、教育助成局地方課谷川調査係長は、 「教職員の選挙活動をすべて禁止する趣旨ではない、教職員にも市民的自由はあり、選挙活動でできることはあるが、書ききれない」とこたえている。(「新聞全教速報版」No.156参照)また府教委の担当者もこれと同様の見解を表明し、「あくまでも教職員の身分を守るためのものであって、教職員の選挙権や表現の自由を妨害する目的ではない」としている。
このような教職員の当然の権利をおさえつけ、教職員・府民・子どもに現府政への批判を許さず、結果として服従することを企図することこそ偏向行政であり、政治的中立をおかすものである。このような不当な「通達」を断じて認めるわけにはいかない。
府立高教組は、一人ひとりの教職員の政治活動の自由を擁護して、冷たい自民党官僚府政から府民が主人公のあったかい府政に転換をはかり、憲法・教育基本法を生かした学校づくりをすすめ、教職員・府民の要求実現のために全力をあげるものである。
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