役所の無駄遣い、JAL経営危機!これが究極の改革案だ
大前研一の日本のカラクリ
JALの経営にもパーキンソンの法則は当てはまる。会社が存在しているだけで余計な仕事が生まれるのだ。
小川 剛=構成
カットするのではなくゼロからつくり直す!
では、どうすればいいのか。企業再生の常道でいえば、ゼロベースからつくることである。カンタス航空(オーストラリア)がLCCのジェットスターをつくった手法がそれだ。カンタスの人材が航空会社のノウハウを持ち込んでゼロからジェットスターを立ち上げ、今ではカンタスの半分のコストで利益を出している。
つまりJALを建て直すのではなく、LCCをゼロからつくる発想である。そのときにJALの運営ノウハウは役に立つかもしれないが、同じ仕掛けを小さくつくってもダメ。社長自ら雑巾掛けして、1人で何役もこなすところからスタートするのだ。たとえば、オフィス用品通販・アスクルが、親会社プラスの事業部としてではなく、岩田彰一郎社長とスタッフ2名でゼロから立ち上げた(1997年)から成功したのと同じ理由だ。
行政におけるゼロベースの改革とは何か。鳩山民主党の言葉を借りれば、人口30万人規模の基礎自治体を一度ゼロからつくり直すことである。
たとえば基礎教育。その最大の責務が自立した社会人をつくることとすれば、義務教育において文科省の指導要領を読むだけの職業教師は不要となる。
難しい学科の勉強は全部ネットでできるのだから、学校では近所のコンピュータ会社の技術者がパソコンを教えたり、弁護士が法律の基本を教えたり、八百屋さんが仕入れと原価の関係を教えたりすればいい。社会の中には子供たちに大事なことを教えられる人が山のようにいる。そういう人たちを活用し、ネットを最大限利用すれば、職業教師は今の5分の1で足りる。
しかも、より心のこもった教育を地域住民総出で行える。義務教育とは何か、何を達成したいのか、などをゼロベースから考える、そしてつくる、からこそ経費も何分の1になるのだ。今のやり方のままで削っていっても、せいぜい数%しかできないのと対照的である。
もう一つは高齢者の活用。高齢化社会の特徴は時間も金も余っている高齢者が増えることなのだから、介護、看護、保育の分野などで高齢者が社会貢献できるシステムをつくる。保育施設をつくるより、子育ての経験がある高齢者が近隣の子供を預かるようにしたほうが、よほど安上がりだし保護者も安心するだろう。
コミュニティ総出で責任を持って幼児や子供たちを育てれば、血の通った教育ができるしコストも下げられる。自警団や消防団などの活動も手分けして、たとえば火災発生時に消火活動を行えば、延焼などの被害拡大を防ぐこともできよう。昔はどこの村でもそうやっていたのだ。
要は、コミュニティの住人が行政サービスを分担することで社会コストは大幅に下がり、地域の輪ができる。それが犯罪を減らし、コミュニティの安心・安全にも大きく寄与するのだ。
このように基礎自治体というものをベースにゼロから組み立てるLCC的アプローチをすれば、私の試算では日本の行政コストは5分の1になる。
大きく削れる最大の理由は、日本全国同じ仕事をしている許認可や届けの部分にはクラウドコンピューティング(ネット上のサーバーを利用して処理するシステム)が使えるし、地域住民が行政の仕事を手分けするからである。皆が行政サービスの受益者としてホテルに泊まっているような感覚になっているから膨大なコストがかかるのであり、そのサービスメニューを全国一律で考えるから不必要な無駄が生まれているのだ。
そして、行政コストを下げるインセンティブとして、基礎自治体には「徴税権」と「立法権」を持たせる。コミュニティで使う金はコミュニティで集め、使い道も自分たちで決めるのだ。
民主党の事業仕分けも結局は中央主権的手法である。質問に答えられなかったら全部カットするような乱暴なやり方では、本当に必要なものかどうかは見分けられるわけがない。そもそも必要な金かどうかは、それを使う(そして負担する)コミュニティが最終判断すべきで、国がすべての予算を決めるところに本質的な問題があるのだ。
要らないものをカットするのではなく、ゼロからつくり直して必要なものだけを足していく。そういう発想に変えなければ、機能不全に陥った日本という国家を再生することなど到底できないだろう。
大前 研一
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長
1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾
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