研究紹介 『フグ毒について』 当研究室のテーマは、大きく二つある。一つは、質量分析器を用いての水クラスター 測定、一つは、海洋毒、特にフグ毒の研究である。紙面の都合上、今回は後者の一部の みを紹介させて頂くことにする。 現在、トラフグ養殖では魚同士の噛み合いが大きな問題となっている。噛み合うこと により魚が傷つき歩留まりが悪化するのである。これに関連して、私たちは「トラフグ がフグ毒に著しく誘引される」結果を根拠に、トラフグにとってフグ毒は必要物質との 観点に立っている。この観点からすると、現行の無毒餌料使用のトラフグ養殖は、“必 要物質”の無い状態での養殖と言うことになる。当然「“必要物質”のフグ毒を投与す れば噛み合いに効果があるのでは」と予想できるので噛み合い実験を行った。すなわち、 無毒の養殖トラフグを毒化させた後噛み合いをさせ、その回数を対照(無毒区個体)と 比較検討したのである。この実験は、二回行ったが、二回ともフグ毒を投与すると噛み 合い数は対照の30%前後に激減した。 上記結果は、フグ毒投与がトラフグの噛み合いに効果があることを示していると共に、 「フグ毒は全ての生物にとって毒」でなく「一部の生物には毒というよりむしろ必要物 質」との見方が必要になったことをも暗示している。