東京・銀座の2005年のビル売買をめぐり、東京都港区の不動産会社「湊(みなと)開発」の実質的経営者とされる指定暴力団稲川会系組長、中村富夫容疑者(60)らが同年12月期の法人所得約26億7700万円を隠し、約8億円を脱税した疑いが強まったとして、東京地検特捜部は20日、法人税法違反容疑で中村容疑者ら2人を逮捕した。また東京国税局と合同で、同社など関係先の捜索を始めた。
ほかに逮捕されたのは、同社代表取締役・坂元秀之容疑者(53)。
ビル売買は、外資系投資ファンドの資金などが都心の不動産に大量流入し、好況だった「ミニバブル」といわれた時期に行われた。都心部の不動産取引は長年、暴力団の資金源のひとつと指摘されてきたが、不正の摘発は周辺関係者にとどまっていた。不正資金を得た暴力団幹部自身が脱税容疑で摘発されるのは極めて異例だ。
登記簿や関係者によると、同社は、銀座中心部の「並木通り」に面し、飲食店や会社事務所などが入るテナントビル(地上6階建て)の建物の所有権などを1999〜04年にかけて取得。その後、05年7月に別の不動産会社に約44億円で売却した。現在は別のビルに建て替えられている。
特捜部の調べなどによると、中村容疑者らは共謀のうえ、ビルを売却した際、事実上のダミー会社だった不動産会社「東京工営」(港区)などが取引に介在したように仮装。ビルの取得時にさかのぼって仕入れ経費を払ったように見せかけ、利益を付け替えていた。東京工営などが抱えていた多額の赤字と利益が相殺されるため、課税される所得が発生しないようになっていた。中村容疑者側の口座に売買益が流れている証拠をつかんだことなどが、摘発の決め手になったという。
国税関係者らによると、暴力団側が不動産取引などで得た所得を適切に税務申告するケースは極めて少ないとされる。だが、複数のフロント企業を取引に介在させる手口のため資金移動がわかりにくく、フロント企業の不正経理を把握したとしても、暴力団まで課税するのが困難な状態が続いている。
暴力団幹部が脱税容疑で立件されたのは、パチンコ景品交換で得た所得約7億7千万円を隠し、所得税約3億7千万円を脱税した指定暴力団幹部が93年に摘発された事件以降ないという。