足利事件の再審公判が宇都宮地裁で開かれ、4歳女児を殺害したとして無期懲役が確定し、その後釈放された菅家利和さんを検察官が取り調べた際の録音テープが再生された。菅家さんが、虚偽の自白を明確に否認し、再び「自白」するまでの過程が明らかになった。冤罪防止の教訓にしなければならない。
事件は1990年に栃木県足利市で起きた。菅家さんはDNA鑑定などを根拠に逮捕、起訴された。再生テープは宇都宮地検の検察官が92年1月28日、2月7日、12月7日、12月8日に宇都宮拘置支所で取り調べた際の4本だ。
菅家さんは、12月7日のテープの中で、検察官から足利事件への関与を問われ「全然かかわっていません。絶対言えます」と初めて明確に否認した。菅家さんが無実を訴えた重要な部分である。検察官から91年12月2日の逮捕時に認めたことを指摘されると「やっていないと言うと、殴るけるとかされると思った」と涙声で警察の取り調べへの恐怖感を語っていた。
再び「自白」したのは否認翌日の92年12月8日である。再生テープで検察官は「ほかに証拠がある」と当時のDNA鑑定結果を菅家さんに突き付けた。「ずるいんじゃないか、君」と追い詰め、菅家さんはついに涙声で「ごめんなさい。すいません」と否認を撤回した。
再生された録音テープは、取り調べの実態を生々しく再現した。検察官は丁寧な口調だが、菅家さんを自白に追い込もうとする執念がうかがえる。必死に無実を訴えても聞き入れられない菅家さんの虚無感も伝わる。虚偽自白の背景をしっかり検証すれば、自白偏重捜査の是正につながろう。取り調べ過程を録音・録画する可視化の動きを後押しすることにもなろう。