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2010年01月22日宇宙政策の転換 軍拡懸念、平和に徹したい

 宇宙基本法に基づき決定された初の宇宙基本計画は、研究開発中心だった平和利用政策から安全保障のための「宇宙の軍事利用」に道を開いた。宇宙産業を21世紀の戦略的産業に育てるとも打ち上げた。目前の難題が目立つあまりにかすみがちな計画だが、重大な政策転換である。前政権の計画とはいえ、引き継いだ鳩山政権が一体どんな肉付けをするのか注目したい。

 今年は夏に日本初の金星探査機「あかつき」が打ち上げられる。謎に満ちた惑星解明は世界の研究者の注目を浴びている。また、2003年に打ち上げられ、小惑星「イトカワ」への着陸・離陸という世界初の偉業を成した探査機「はやぶさ」が地球に帰還する。ロマンあふれる話題がそろった年に、明るい宇宙政策を期待するが、軍事利用に舵(かじ)を切った宇宙基本法と同計画には反対意見が根強い。

 1965年、国会は「宇宙の利用、開発は平和利用に限定する」と決議。民主的、公開、国際協力などの原則を基に宇宙の利用、開発を行ってきた。今計画は「憲法の平和主義の理念を踏まえ…、世界の平和および人類の福祉の向上に貢献」と型通りの方向付けはしているが、実質的な軍事利用の解禁である。

 具体的に何をするのか。一つは自衛隊による利用拡大だ。情報収集衛星の機能強化に加え、弾道ミサイル発射を静止軌道から監視する早期警戒衛星の研究開発も盛り込まれた。昨年春、北朝鮮ミサイルが日本海と太平洋に落下した事件が安保分野での宇宙利用を加速させた。

 だが、日本の情報収集衛星は活動状況が伏せられ画像も公開されていない。災害や資源調査に使う計画も不明確だ。心配される台風や豪雨、巨大地震、未知の感染症、環境問題など日本は新たな危機と課題に直面している。必要とする分野は多い。有効活用法と情報の透明性を守らないと、ますます秘密主義の計画へと走りかねない。

 さらに今後5年間に34基の人工衛星を打ち上げるという。過去5年間の2倍以上という大盤振る舞いで国際市場での競争力強化を目指す。税金をつぎ込むからには詳細な検証が欠かせない。科学技術分野では、財政難の中で派手な事業に巨費を投じ、研究土台となる大学の運営基盤強化や人材育成をないがしろにしてきた結果、日本の「研究力」に陰りを生じたという前例がある。

 宇宙計画も同じ懸念がある。まとめ段階で効果について議論がなかったという。科学技術の二の舞いを避けるため宇宙科学の歴史に残る目標を定めたい。そして、第一級の科学と世界最高技術で多くの実績を挙げてきた日本の宇宙開発の伝統を、軍事化の付録にしてはならない。

 宇宙利用は平和に徹してこそ国民の信頼を得る。軍拡路線は世界の対立に引き込まれる。プロジェクト優先度を見極め、鳩山政権には無限に広がる宇宙発展の道を見失わないでほしい。

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