看護や介護の能力は優れているのに、資格を取るのが難しい。最大の壁は「漢字が読めない」ことにある。
日本の医療、福祉の現場で、看護師や介護福祉士を目指して働いているインドネシアやフィリピンの人たちのことだ。政府間の協定に基づき、2008年から受け入れが始まっている。
働き続けるには高いハードルがある。看護師は3年以内、介護士は4年以内に、国家試験に日本語でパスしなくてはならない。
異国で働きながら、短期間で試験に通るのは容易なことではない。まして、なじみのない日本語を一から勉強して、である。
昨年の看護師試験の合格者はゼロ。今年の試験が近い。岡田克也外相は、漢字にふりがなを振るなどの対応を検討するとしている。
来日した人たちは、母国ですでに看護師などの資格がある。日本の現場での評価も高い。試験の際は言葉のハンディに配慮し、柔軟に対応してほしい。
根本の問題がある。国家資格を取るには、協定の在留期間では短すぎる。見直しが必要だ。
看護師・介護士の候補者たちは県内の現場にもいる。例えば、特別養護老人ホームなどを運営する敬老園(上田市)では、2人のインドネシア人男性が介護士を目指して研修している。
働きぶりはまじめで介助が丁寧、と利用者の評判は上々だ。2人のゆったりした雰囲気に、心がほぐれるお年寄りもいる。
2年後の受験に向け、敬老園は特別のカリキュラムを組み、日本語の指導にも力を入れている。それでも、勉強が追いつかない。
「誤嚥(ごえん)」「清拭(せいしき)」「褥瘡(じょくそう)」「端座位(たんざい)」。こうした難解な専門用語を覚え、筆記試験では1問あたりを1分半で解くスピードを身につけなくてはいけない。
日本人でも半数が落ちる介護福祉士の試験に、2人が挑戦できるのは1度きりだ。看護師の試験は最大で3回受けられるものの、合格しなければ帰国させられる。
医療、福祉の現場に外国人の力を取り入れ、かつ高い日本語の能力を求める以上、彼ら、彼女らが日本で言葉の習得と試験の勉強を十分積める時間と環境を保障しなくては、公正さを欠くだろう。
急速に少子高齢化が進み、医療や介護の担い手不足は深刻だ。外国人労働力を頼む現場の声は、切実さを増している。いまの政府の姿勢は、有能な人材を「使い捨て」にするとみられても仕方ない。定住に広く門戸を開くべきだ。