「政治とカネ」の問題で、鳩山由紀夫政権は窮地に追い込まれている。
野党にとって、政府や与党を厳しく追及する材料には事欠かないはずだ。野党が、その本領を発揮すべき「主戦場」の国会論戦も本格的に始まった。
しかし、野党第1党の自民党が、いまひとつさえないのはどうしたことか。
小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体の土地購入をめぐる政治資金収支報告書の虚偽記入事件は、小沢氏の元秘書だった石川知裕衆院議員の逮捕へ発展した。東京地検はきょう、小沢氏を任意で事情聴取するという。
鳩山内閣の支持率は急落している。共同通信社の世論調査によると、不支持率がとうとう支持率を上回った。昨年9月の組閣から初の事態である。
ところが、自民党の政党支持率は微増にとどまり、内閣支持率が大きく落ち込んだ割には、それほど回復していない。
衆院予算委員会の国会論戦で自民党は、谷垣禎一総裁を立て鳩山首相との党首対決に挑んだ。総裁自ら論戦の先頭に立つ意気込みは大いに買いたい。
谷垣氏は小沢氏の政治資金問題や鳩山首相の個人献金偽装事件を取り上げた。しかし、首相の政治姿勢を問い詰める論議が佳境を迎えたかと思えば、「きょうはここまでとしますが」と自ら矛を収める場面が目立った。
迫力不足と言われても仕方あるまい。自民党席から「もっと突っ込め」とヤジが飛んだほどである。
谷垣総裁を筆頭に自民党の議員たちは持ち時間の多くを「政治とカネ」の問題追及に費やした。政権のアキレスけんを徹底的に攻め立てるのは、野党の常とう手段である。
しかし、これまでの報道を引用して再確認を求めるような質問が大半だった。党独自の調査で発掘した新たな事実や疑惑を突き付け、一気に緊張が高まるということもなかった。自民党支持者ならずとも、もどかしさを感じた国民は少なくないのではないか。
小沢氏の問題をめぐって異様な検察批判を強めるなど、いわば政権与党の作法に慣れない民主党と、その民主党を批判しながら肝心の国会論戦で攻めあぐねている野党・自民党。政権交代で明暗を分けた両党だが、ともに試行錯誤は続き、トンネルの出口がなかなか見えてこない。与野党を問わない「政治の迷走」にいらだつ国民の目には、そう映る。
歴史的な政権交代で私たちがあらためて痛感するのは、新たに政権を獲得した与党の自覚と責任もさることながら、健全で活力のある野党の重要性だ。
自民党はあす党大会を開く。政党の理念を明記する綱領も改め、政権奪還への決意を新たにするという。時の政権が行き詰まり、国民の信任を失えば、いつでも政権を担える野党の存在が問われる。政治に緊張感と躍動感を持たせるためにも、自民党の「奮起」を促したい。
=2010/01/23付 西日本新聞朝刊=