北海道砂川市が市有地を地域の神社に無償で使わせていることが、憲法の政教分離原則に反するかどうかが争われた訴訟で、最高裁大法廷は「違憲」との判断を示した。
最高裁は判決で、砂川市が神社に市有地を無償提供している行為を「一般人の目から見て、特定宗教に特別の便宜を供与し、援助していると評価されてもやむを得ない」と指摘した。
そのうえで、市の対応を「特定の宗教団体のために公の財産を提供する」ことを禁じた憲法89条に反し、ひいては「宗教団体への特権の付与」を禁じた憲法20条にも違反するとした。
宗教とのかかわりについて、地方自治体など行政に慎重で厳格な対応を求めた妥当な判決といえる。
公有地を神社などの宗教施設に無償で提供しているケースは、全国に数千カ所あるともいわれる。地方自治体は判決を重く受け止め、違憲状態にあるものがあれば、解消に努める必要があろう。
訴訟対象となった神社は、市有地に町内会館と併設されている。市が町内会に無償で土地使用を認め、町内の氏子たちが神社の管理や運営をしている。
鳥居と祠(ほこら)だけがある小さな神社だが、年3回の祭事には別の神社から神職が来てお祓(はら)いなどの神事を行っている。
市側は裁判で地域住民の集会などに使われる場で「宗教目的の施設ではない」と主張してきたが、最高裁は鳥居や祠があり神事が行われている実態から宗教施設と認定し、市の主張を退けた。
政教分離原則をめぐる訴訟で最高裁の違憲判断は2例目だが、今回判決で注目すべきは、憲法違反かどうかを判断する際、施設の性格や提供の経緯、態様とともに「一般人の評価などを考慮し、社会通念に照らして総合判断すべきだ」との新たな基準を示した点にある。
そして「宗教的施設としての性格があっても、歴史的、文化財的な建造物として保護の対象となるなど社会的な価値や意義に着目して公有地に設置されている場合もあり得る」とも述べている。
行政が宗教と過度のかかわりを持つことを戒める一方で、その限度については地域社会の現実にも配慮する必要性を指摘したものだろう。その意味では、実態に即した判決ともいえる。
憲法違反を指摘しながら、原告が求めた神社の撤去だけでなく、土地の譲渡や有償提供などによって違憲状態を解消できることを例示したのも異例だ。
この判決を受けて、ほかの自治体でも同じようなケースが問題化する可能性がある。そうならないように司法が適切な対処を促したと受け止めたい。
穏当な解決策を求めた現実的な判決ではあるが、今回の判決が真に求めているのは、憲法が定めた政教分離原則について、行政は常に慎重かつ厳格でなければならないということだ。その点は再確認しておきたい。
=2010/01/22付 西日本新聞朝刊=