中米カリブ海の島国・ハイチをマグニチュード(M)7の大地震が襲った。発生から10日ほど経過したが、もともと政府の統治能力が弱く、救援活動はほとんど外国の緊急支援が中心だ。人命救助の難航に加え、治安が急速に悪化しており、救援の実効を上げるためにも、国際社会による治安維持が急務である。
ハイチ政府高官は19日、すでに約7万5千人が埋葬され、犠牲者総数は10万―20万人に上ると述べた。国連は、300万人が被災し、150万人が住居を失ったと推計している。
この災害がスマトラ沖地震や中国・四川大地震など近年の大災害と異なる点は、地震が首都を直撃し、被災者救援の陣頭指揮を執るべき政府・行政の機能がまひしていることだ。
海外からの救援隊が、倒壊家屋からの負傷者の救出、食料や水の配布、医療などの活動に当たっているものの、物資も人手も不足しており、住民の忍耐は限界に達している。倒壊した商店からの略奪が相次ぎ、群衆が殺気立って支援物資を円滑に配れないなど、治安の悪化が救援活動を妨げるケースが出ている。
このため、ハイチ政府は非常事態を宣言し、首都には夜間の外出禁止令が出された。しかし、警察や消防組織は貧弱で、自国政府だけでは救援活動も治安維持も十分に遂行できないのは明白だ。
この状況では、国連を中心とした国際社会が取り仕切るしかない。
ハイチは1804年、中南米諸国では最初に独立を遂げたが、長年の独裁による腐敗で経済は停滞し、インフラ整備も進まなかった。民主選挙実施後も政情は不安定で、2004年から国連平和維持活動(PKO)部隊であるハイチ安定化派遣団が駐留している。国連安保理は19日、そのPKO要員を3500人増派することを決定した。PKO部隊を中心に治安活動を強化する方針だ。
救援活動で目立つのは、やはり隣国である米国だ。1万人規模の兵士を投入したほか、当局に代わり空港の管制業務も行っている。中国も発生翌日には救助犬を含めた緊急援助チームを現地入りさせるなど、迅速な対応が注目される。
日本は国際緊急援助隊医療チームを派遣し、18日から現地で活動を始めた。21日には自衛隊の緊急医療援助隊を追加派遣したが、中国などに比べればやや出遅れた感がある。鳩山由紀夫首相の唱える「友愛」の理念に照らして、対応がベストだったか、検証が必要だ。
ハイチは「米国の裏庭」と表現されるカリブ海に位置し、地政学的な重要性が高い。このため、各国とも支援に積極的だ。しかし、もっと注目度が低い貧困国で災害が起きた場合、他国がどこまで本気で取り組むか、不安も覚える。
統治能力が弱い途上国での大災害は、国際社会による被災者救援と治安維持が欠かせない。ハイチで実践しつつ、緊急支援の仕組みをつくりあげたい。
=2010/01/22付 西日本新聞朝刊=