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市有地神社の違憲判決 現実的なけじめ求める '10/1/22

 集会所と神社を兼ねた建物がある。正面には鳥居も立つ。その土地が市からの無償貸与と知って「憲法の政教分離に反する」と訴えた元中学教師の主張を、最高裁が認めた。

 政教分離をめぐって違憲の判断が示されたのは2件目だ。大原則に基づくけじめを求めつつ、柔軟な解決策も示している。現実的な裁きと受け止めたい。

 争われたのは北海道砂川市の空(そら)知太(ちぶと)神社。入植者のほこらが起源で、現在は集会所として使われることが多いという。

 それでも外観や祭事などからすれば神社。無償での貸与は「特定の宗教に特別の便宜を提供し、援助している」と見られてもやむを得ず、公の財産の利用提供を禁じる憲法89条などに触れる。そう判決は言う。

 一般の感覚では、近所のお宮や町の片隅にあるほこらを「宗教施設」と呼ぶのは少し大げさだろう。初詣でも七五三も習俗に近い。政教分離といっても、地方ではそう厳密ではなかったようだ。

 そこで最高裁は1977年の津地鎮祭訴訟で、完全な政教分離は難しいとの前提に立って、国や自治体の行為が違憲になる目安を、こう示した。

 目的が宗教的な意義を持つとき、そして結果が宗教への援助や干渉などになるとき。この少しあいまいな基準が、それ以降の訴訟で定着していった。

 今回はこれを補完して、無償提供についての判断の尺度を示したのが特徴だ。「これまでの経緯」「一般人の評価」「社会通念」などさらに幅広い角度から考えなければならないとする。

 「違憲」という結論部分だけから見ると、政教分離の原則をはっきり貫いた印象を受ける。しかし判決全体からは、現実への配慮が色濃く感じられる。

 例えば代替手段の例示である。一、二審では、原告が求める鳥居や神社の撤去にまで踏み込んだ。しかしこれでは住民間に感情のもつれも生みかねない。

 ほかに市有地の全部、または一部の有償・無償での譲渡などの方法もあるはずだ。そう言って審理を札幌高裁に差し戻したのは、現実に即した運用だろう。

 公有地に立つ宗教施設は、数千カ所あるともいう。宗教法人の場合はほとんど所有地化されているようだが、岡山市では十数年前まで、市有地が大きな神社に無償で貸与されている例があった。自治体はあらためてチェックをし、けじめをつけたい。

 ただ判決も言うように歴史的、文化財的な建物として、観光資源として、公有地に立っている神社もあるだろう。

 あるいは地元の人が共同で守り続けていたり、さかのぼるともともと土地は地元が寄付したようなケースも多いはずだ。

 今回の判決で不安を抱いている氏子がいるかもしれない。自治体も機械的に「違憲」と決めつけるのでなく、状況に応じた処理をしなければなるまい。




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