社説
新幹線全線開通へ/「東北振興」見つめ直したい
当時、車両の色から「緑の疾風(はやて)」と呼ばれた高速鉄道が、白河を越え北の暫定ターミナル・盛岡に姿を現してから28年。東北の宿願がことし、やっと成就する。
12月に予定される東北新幹線八戸―新青森間(81.2キロ)の開業である。これで東京―新青森間674.9キロの全線が開通。「東北振興」の歴史に、時代を画す新たなページが加わる。
県土の中央に迎え入れる青森では、待ちに待った本格的な新幹線時代の到来に県勢底上げの期待が高まる。
東北にとっては6県の県庁所在地を結ぶ高速大量輸送網の完成を意味する。域内、そして首都圏を中心にした域外と、人とともに生きた情報の交流が厚みを増し加速することだろう。
デフレ不況の中で東北は浮上のきっかけをつかみきれないでいる。人口減少、高齢化も進む。大動脈の全通を弾みにし、都市間・地域間の「競争」と「連携」によって、あすの展望を切り開きたい。
在来線との乗り継ぎで現在、約4時間を要する東京―青森間は開業時に3時間20分程度、新型車両の投入で3年後には3時間ちょっとにまで縮まる。
この時間距離の短縮による経済効果、中でも首都圏などからの旅行客増による観光の活性化に地元・青森は期待を寄せる。
だが、効果を享受するだけの待ちの姿勢では一過性に終わりかねない。効果を創出しようという気構えでなければ、全国で最悪の水準にある雇用環境を含め経済の好転は望めまい。
新青森駅の外観には三内丸山遺跡を思い浮かべる縄文集落のイメージがあしらわれる。その時代から自然と共生し、はぐくんできた歴史と食を含む文化は、豊かな自然とともに青森が誇る観光資源だ。やって来る「よそ者」の生きた情報も活用して、これらに磨きをかけたい。
新駅・七戸十和田(七戸町)も開業する。二つの新駅と津軽、十和田湖方面とを結ぶ2次交通を整備することが重要だ。地域が競い合って価値を高めた観光資源を効率的に結ぶことで、波及効果をものにできる。連携を強める動きにも期待したい。
一方で、主要都市間の移動距離も縮まり、都市間競争が激しさを増す契機にもなり得る。ビジネスの利便性は高まり、コスト削減のため青森から営業拠点を引き揚げ仙台や盛岡に集約する企業も現れよう。
消費者も移動しやすくなり、魅力的な商業施設が集積する仙台への集中が一層進みかねないという指摘もある。だが、仙台はほかの地域から見れば百万の人口を抱える大市場である。そのことを踏まえ、商業に限らず、観光でも仙台などから客を引きつける個性づくりを競い合って、共生を図りたい。
同時に手を携えて、例えば東北を縦断する観光ルートを開発できないか。海外からの旅行者誘致も視野に入れながらだ。
新幹線全通という歴史の節目に当たり「白河以北」の地域振興の在り方について、あらためて知恵を巡らしてみる。そんな思いを共有する機会にしたい。
2010年01月22日金曜日
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