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社説:米金融規制強化 「大統領の戦い」支持する

 オバマ米大統領が就任して1年、リーマン・ショックまでさかのぼれば16カ月。ようやく歴史的変革につながる可能性を秘めた金融規制案が米国で登場した。

 預金を扱う銀行にリスクの高い投資活動をさせない、というのが、大統領自ら発表した規制強化策の柱の一つだ。預金者を守るという観点から国に保護されている銀行が、ヘッジファンドに出資したり、自社の利益のために顧客業務とは関係のない証券取引を行ったりすることを禁じるものである。投資に失敗しても最後は公的資金で救済してもらえるとの甘えから、金融機関が危険な投資に手を染めるのを防ぐ狙いがある。

 もう一つの柱は金融機関が巨大になりすぎないよう規模に新たな歯止めをかけるものだ。無責任な経営に原因があっても、「大きすぎてつぶせない」との理由から金融機関を税金で救済せざるを得なくなる事態の再来を阻止しようというものだ。

 オバマ政権が昨年夏に取りまとめた規制改革案は「改革」と呼ぶには中途半端な内容だった。金融機関の肥大化や業務の複雑・多岐化といった根本的な問題にはメスを入れず、金融自由化の原則を維持するものだった。すでに法案が議会で審議されていたが、大統領は本格的な規制強化に向け大きくかじを切った。勇気ある方針転換として評価したい。

 背景には政治的な計算もあっただろう。マサチューセッツ州選出の連邦上院議員補選で民主党候補が敗北した影響は小さくないはずだ。上院で民主党が安定多数を失い、医療保険制度改革の先行きも不透明になる中、ウォール街たたきは、格好の人気取りになり得る。

 発表を受け米国の株式市場は急落した。東京市場にも余波が及んだ。規制が実施されれば、大手金融機関の姿が大きく変わり、従来のような高収益は期待できなくなるからだ。しかし、企業や国民の経済活動を支える本来の金融業とは、そもそも世間一般とかけ離れたもうけなど無縁のはずである。

 今後、ウォール街の猛反撃が予想される。それを覚悟の大統領は「彼らが戦う気なら、受けて立つ用意がある」と宣言した。議会の支持獲得も難航するかもしれないが、ひるまず指導力を発揮し続けてほしい。形だけの金融界たたきに終わってはいけない。必要なら修正を何度繰り返してでも、有効な再発防止策を練り上げてもらいたい。

 他の主要国との政策協調も必要になってくるだろう。また、銀行業から証券、保険業務まで幅広く手掛ける“金融のデパート”を目指す日本の路線も、影響を受けかねない改革だ。動向を注意深く見守りたい。

毎日新聞 2010年1月23日 東京朝刊

 

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