社説

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

社説:貧困対策 就労につながる支援を

 雇用保険に入っていない派遣労働者などは、失業すると仕事だけでなく住居も当面の生活費も失う恐れがある。一昨年の年越し派遣村から得た教訓である。このため、政府は「第2の安全網」の整備を進めている。失業者に対する住宅入居費や生活費の貸し付け、職業訓練期間中の生活費の給付などだ。これらの相談を一括して受けられるようワンストップ・サービスも実施した。仕事の相談はハローワーク、生活保護は自治体、当面の生活費や学費の貸し付けは社会福祉協議会などと縦割りになっているためだ。

 ところが、このワンストップ・サービスは思ったほど機能していない。自治体の職員はハローワークに出向いて相談に乗るが、実際に生活保護の申請手続きをするためには再び自治体に足を運ばなければならないためだ。生活保護費は国が4分の3、市区町村が4分の1を負担する。不況の長期化で受給者が増えており、ワンストップで申請者が集中するのを懸念する自治体が多いためとみられる。また、第2の安全網も利用期間が限られている上、職業訓練を受けるのに交通費を自己負担し、長い時間かけて通うことを敬遠する人も少なくないという。

 さらに深刻なのは、相談窓口にも結びつかない人が増えていることだ。連合が昨年12月に非正規雇用労働者や求職者らに行った調査では、第2の安全網を知っている人は15%、ワンストップ・サービスは20%に過ぎなかった。ハローワークなどの相談機関に行ったことがない人が過半数で、関心はあるが「何ができるかわからない」「たらい回しにされそうで不安」という人が多かった。

 福祉事務所のケースワーカーらが失業者や生活困窮者を訪問して継続的な支援をしなければ容易には自立に結びつかないのだ。幼い子を連れた母親が住居を失って1年間車中で生活していた、30代の男性がコインランドリーで寝泊まりしていた……といった例も珍しくはない。ところが、財政難でケースワーカーは削減され大幅に不足している。仕事量は増え続けているのにである。

 現在、政府は第2の安全網の拡充を検討しているが、いくら安全網を拡充してもそれが機能しなければ生活保護の受給者は増え、長期化して財政を圧迫する悪循環に陥る。英国では就労担当機関が所得保障も統括して失業者の個別支援に努めている。相談窓口と予算を増やすだけでなく、着実に就労や社会参加につなげるための制度改革が必要ではないか。貧困と孤立に陥っている人の生活の場に入っていって寄り添いながら自立へとつなげる機能を担った人の増員が必要だ。

毎日新聞 2010年1月23日 東京朝刊

 

PR情報

社説 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド