気象庁の予想が外れても、さほど気にしたことはなかったけれど、今回だけは恨んだ。世界スプリントスケート選手権が開かれた先週末の帯広は、冷え込んだ。暖冬の予想? とんでもない。深夜には氷点下19度と表示されていた。
ところが、スケートリンクの中は、意外に暖かかった。長野のエムウェーブに次いで、日本で二つ目の400メートルの屋内リンク、明治北海道十勝オーバルは、室温17度前後。レース観戦は、セーターでOK。厳寒の帯広で、これほど暖かいリンクになったのは、コンパクトな設計だからだ。
建物の高さは約20メートル弱しかなく、天井まではもっと低い。スタンドは約1000席で立ち見客を入れても収容人数は3000人程度。エムウェーブは、いちばん高い天井部は43メートルもあり、スタンドが6500席、最多では1万人も入る。これだけ大きいと、いくら暖めても、なかなか室温は上がらない。逆に十勝オーバルは狭いので、室温調整が自在、というわけだ。
長野五輪というビッグイベントのために作られたエムウェーブは、ぜいたくな施設だ。外観のデザインは美しいし、カラマツ材を使った天井を見上げても、スポーツ施設というより、巨大なコンサート会場のような雰囲気がある。建設費は348億円かかった。一方、十勝オーバルは、デザインはシンプルで、まるで大型体育館。天井のはりや送風ダクトなどもむき出しで、そっけない。建設費はエムウェーブの約6分の1の60億円で建てられた。
しかし選手の評判は、十勝オーバルの方が、ずっと上だ。室温が高いので体がよく動く、と口をそろえる。「長野は寒すぎるから嫌い」という声もよくきく。7月から氷を張るのも好評だ。夏の間は大型展示場などに姿を変えるエムウェーブとは違い、スピードスケートの拠点にしたい、という意思が明確だ。今後は、夏の間、カルガリー(カナダ)やソルトレークシティー(米国)に足を延ばしていたチームも、帯広で夏合宿をするところが増えるかもしれない。
エムウェーブがデラックスなのは、長野五輪という大義名分があって、予算をふんだんに使えたからだ。ところが、維持費負担が大きすぎてスケート振興や強化の拠点にもなりえず、選手からも敬遠されている。
公共事業で一時的に浮かれる、ハコもの行政の愚は、寒い寒いエムウェーブにも表れている。(専門編集委員)
毎日新聞 2010年1月22日 東京夕刊
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