「変革」を掲げて熱烈な歓迎を受け就任したオバマ米大統領。政権発足から1年を迎えたが、米国の景気回復の足取りは重く、泥沼化しつつあるイラクとアフガニスタンでの戦争に足元をとられ、過熱した期待もすっかりしぼんだ印象がある。
しかし、世界不況からの脱却や核軍縮の推進、地球温暖化対策など、各国が共同して取り組むべき課題にオバマ政権のリーダーシップは欠かせない。同じく政権交代で誕生した鳩山政権がどうかかわっていくか、日米協力の在り方が問われる。
発足直後は70%近くあった支持率は、昨年末には50%を割るまでに下落した。ゼネラル・モーターズなどビッグスリー2社の経営破綻[はたん]後、失業率は悪化の一途。国内総生産(GDP)はプラスに転じたものの力強さはなく、医療保険改革など内政でも批判を浴びていることが支持率に反映しているようだ。
それでも、オバマ大統領が世界の人々に発したメッセージはまだ色あせてはいない。「核兵器のない世界を目指す」としたプラハ演説、「イスラム世界との対話」をうたったカイロでの演説。唯一の超大国として軍事力をてこに単独行動主義に走ったブッシュ政権からの転換を、鮮明に印象づけた。
ミサイル防衛施設の東欧配備の撤回、米ロの新たな戦略核兵器削減交渉など、軍縮を一つの戦略と位置付けた協調路線は評価したい。ノーベル平和賞の贈呈には、核廃絶への人々の希望が込められている。
ただ、厳しい現状に直面しているのも事実だ。昨年末、アフガニスタンに米軍3万人の増派を決めたが、テロは続発している。イランや北朝鮮の核開発阻止でも展望は開けていない。ノーベル賞授賞式で「正義の戦争」を強調してみせたのは、理想を掲げながらも、超大国の指導者として現実主義者であることをアピールする狙いもあったのではないか。
2年目のオバマ政権にとって、アジアの存在感は重みを増しそうだ。成長著しい中国やインドなどは、不況にあえぐ米国にとって魅力的な巨大市場だ。対米輸出に過剰に依存してきた後遺症から立ち直れない日本と、アジアでの競合も予想される。昨秋のアジア歴訪で、GDPで世界2位に迫った中国と貿易拡大で合意したが、米中の交流拡大はアジアの安全保障の構図にも影響しそうだ。
日米安保の改定から50年。米国のアジア外交にどう向き合っていくのか。アジア諸国と緊密な関係を深めながら、アジアの一員として日米協力関係を深化させていく努力が求められる。日米同盟さえ強固ならすべての外交問題は解決できるなどという姿勢が許されるはずもない。
オバマ政権は環境とエネルギー戦略を通して米国再生を目指す「グリーン・ニューディール」政策を打ち出した。太陽や風力など再生可能エネルギーの開発では、先行する日本との技術提携が重要となろう。京都議定書に背を向けたブッシュ政権から路線転換した米国を、中国とともに国際的枠組みにつなぎとめることも、温暖化ガス25%削減を公約した鳩山政権の大きな課題だろう。唯一の被爆体験国として、核廃絶に向けてもしっかり手を携えたい。
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