鯨の水銀汚染は国内外で報告されている。海洋に流れ出た水銀がプランクトンから魚、鯨へと食物連鎖の中で蓄積、濃縮されていくためだ。
太地町で売られていた小型鯨コビレゴンドウ22検体の平均は9.6ppmで、国が流通させないよう求める魚介類の規制値の20倍以上だった。
厚生労働省は03年、鯨を多く食べる人や妊婦は鯨を食べる回数、量を減らすよう提案している。一方で、国内市場の半分程度を占め、オキアミを主食とする南極海のミンククジラは水銀の汚染度は低いと指摘している。
太地町の調査結果は、欧州の海洋汚染の専門誌電子版で発表された。
現在、環境省国立水俣病総合研究センターは太地町の要請で、全町民を対象に健康調査を進めている。(長崎緑子)
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太地町民の健康調査をしている環境省国立水俣病総合研究センターの岡本浩二所長の話 データが少ない現段階で、直ちに鯨肉の摂取を禁止する必要はないだろう。水俣病を発症した患者の毛髪水銀濃度は100〜700ppm程度という調査があり、今回の調査対象の方はそれより、かなり低い。我々はいま、太地町の町民に対して、皮膚の痛覚や触覚などの感覚に障害が出ていないか調査中だ。早ければ今春にも結果をまとめたい。循環器系への調査も検討し、鯨肉などに含まれる水銀による健康への影響を科学的に明らかにしたい。
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立川涼・愛媛県環境創造センター所長(環境化学)の話 鯨やマグロなどを食べ続ければ、水銀が蓄積され、その濃度が高くなることはあり得る。今回、調査を受けた住民に震えなどの異常がないなら、直ちに危険とはいえない。水銀には複数の種類があり、水俣病など神経障害を起こすメチル水銀が蓄積しているか、詳しく調べる必要がある。毛髪の水銀濃度が高ければ、継続して注意していくべきだろう。