事実上の党首討論としては今ひとつ期待はずれのものだった。
09年度第2次補正予算案を審議する衆院予算委員会が21日スタート、鳩山由紀夫首相と谷垣禎一自民党総裁が1時間半にわたって論戦した。
論戦の場が持たれたこと自体は評価したい。与党側が昨年9月の政権交代後、一度も党首討論に応じてこなかったからだ。今回も国家基本政策委員会という、いわゆる正規の党首討論の場ではなかったが、形より実が大切だ。谷垣氏がこの機を自ら買って出たことには敬意を表す。
ただ、討論を聞いてみて、物足りなさを感じた、と率直に言っておきたい。
まずは「政治とカネ」である。谷垣氏は持ち時間の半分近くを使って小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体の土地購入を巡る疑惑や鳩山氏の偽装献金問題を取り上げた。千葉景子法相には指揮権発動の可能性についても問いただし、幅広い論点から追及したが、疑惑の外形をなぞっただけで、事実関係が深まるところまではいかなかった。
残り半分の時間は、外交・安保、経済財政政策、マニフェストの位置付けなど、国家の政策の肝についての意見交換に使われた。テーマ選定自体は党首討論としてふさわしいものであったが、いずれも尻切れトンボに終わった。
外交・安保では、日米安保が日本外交の基軸である、との一致点を確認する入り口論にとどまり、日米安保をめぐる周辺環境の変化、在日米軍基地の今後のあり方、首相の説く東アジア共同体構想との整合性など、安保改定50年の節目ならではの中身の濃い本音のディベートを聞くことができなかった。
経済財政政策では、国民がもっとも知りたい、と思っている成長戦略について、説得力のある政策提示がいずれからもなく、マニフェストについても単なる定義付けが行われたにすぎなかった。
我々が望んでいるのは、もっと深い論点の整理である。もっと聞き応えのある論争である。これは決してないものねだりではない。例えば、昨年の衆院予算委では加藤紘一・元自民党幹事長が「日本のアイデンティティーとは何か」との論争を仕掛け、首相の「友愛政治」論を深めることができた。類似例は過去にいくらでもある。谷垣氏も鳩山氏もそういった論争をするだけの見識、能力を十分持っているはずだ。
世界は大きく動いている。その中で、日本が政権交代を通じてどういう政治を実現すべきなのか。「政治とカネ」も重要だが、日本の明日をどうするのか。その手がかりになるような議論をぜひしてほしい。
毎日新聞 2010年1月22日 東京朝刊