「捕鯨の町」として知られる和歌山県太地町で、鯨肉を食べる住民の毛髪から日本人平均の10倍を超える水銀が検出され、一部で世界保健機関(WHO)の安全基準を超えていることが分かった。北海道医療大などが住民50人を調べた。鯨肉の水銀汚染は国内外で報告されており、長期間、食べ続けたことで、人体に蓄積された可能性が高い。環境省も全町民を対象に健康への影響がないか、調査中だ。
太地町は全国に5カ所ある小型捕鯨の拠点のひとつ。国際捕鯨委員会(IWC)が禁止していない小型鯨類を湾内に誘導して捕る追い込み漁が盛んだ。
北海道医療大の遠藤哲也准教授(中毒学)、第一薬科大の原口浩一教授(分析化学)らは2007年12月〜08年7月に小学生から80代までの町民50人から毛髪を提供してもらい、水銀量を測定した。
この結果、月に1回以上、鯨肉を食べると答えた28人の平均濃度は、24.6ppm(ppmは100万分の1)で、日本人の平均濃度の10倍以上だった。このうち、50代以上の3人は、最高で67.2ppmと、WHOが神経障害などを発症しかねない基準とする50ppmを超えていた。震えなど水銀による健康被害とみられる症状がある人はいなかった。
食べるのが月1回未満という住民11人の平均値は15.5ppm、全く食べない11人は平均4.3ppmと、鯨の食習慣と密接な関連を示唆する結果だった。
国が99〜02年に全国の約8600人を対象にした調査では、日本人の毛髪の平均濃度は約2ppm。人が水銀を長期間とり続けると、循環器の異常や高血圧、不妊、免疫力低下などが起こる危険が報告されている。水俣病で発症した人たちの毛髪濃度は数百ppmの単位だが、妊婦や子どもでは、それ以下の値でも健康への影響が心配されている。