きょうの社説 2010年1月22日

◎取り調べ可視化 透けて見える「検察に圧力」
 民主党内で、容疑者取り調べ過程の録音・録画を義務付ける刑事訴訟法改正案(可視化 法案)の今国会提出を求める声が高まってきた背景には、小沢一郎幹事長の元秘書らの政治資金規正法違反事件を捜査している検察を揺さぶる狙いが透けて見える。

 取り調べの可視化は、検察、警視庁などに続いて、石川県警などでも裁判員裁判対象事 件で一部録音・録画が始まったが、まだ試行段階であり、拡大には慎重論も多い。検察に圧力をかける材料として政治的に取り扱うべきではなく、あくまで冤罪(えんざい)防止を主目的として冷静に議論できるようになるまで、提出を見送った方がよいのではないか。

 鳩山由紀夫首相は現段階での提出は「検察批判になる」として自重を促す発言をし、国 民新党からも「このタイミングで表に出すと誤解を招く」と難色を示す声があったのは当然だろう。民主党内から、ことさら「検察との対決姿勢」をあおるような発言やマスコミ批判が相次いでいるのは残念だ。

 民主党は衆院選のマニフェストに取り調べの可視化を盛り込んでいるが、捜査への影響 を検証する勉強会が法務省内に設置されたばかりであり、法案提出まで2年程度かかると見られていた。それを今、唐突に持ち出せば、捜査当局内に可視化への抵抗が強いことを利用し、捜査に影響力を及ぼそうとしていると言われても仕方あるまい。

 民主党はさらに「捜査情報漏えい問題対策チーム」の設置を決め、検察から報道機関へ 情報がリークされているとして「国家公務員による守秘義務違反」を追及する構えという。政権政党があの手この手で捜査をけん制した例はなく、報道統制につながりかねない危険をはらんでいる。

 原口一博総務相は会見で、「関係者によると」という報道のスタイルについて「少なく ともそこを明確にしなければ、電波という公共のものを使ってやるにしては不適だ」と批判した。放送局への監督権限を意識した「脅し」にも聞こえる。民主党内で、小沢氏に説明を求める声がほとんど聞かれず、逆に検察や報道機関に批判の矛先を向ける姿は異様に思える。

◎建設業の複業化 成功例の積み重ねが大事
 金沢市の老舗工務店が自己破産に追い込まれ、県内で建設不況がさらに深刻化しかねな い状況になってきた。新年度政府予算案は公共事業関係費が18%削減されるなど、「コンクリートから人へ」を基本方針にする民主党政権のもとでは公共工事の拡大は見込めないだろう。自治体を含め、同様の傾向が今後も続くとすれば、公共投資に過度に依存した経営はもはや成り立たない。

 県は今年度、「建設業複業化支援プログラム」を創設し、農林水産業や環境、サービス 業などへの参入を促す取り組みを本格化させた。業界の救済目的で自治体が無理に公共工事を増やしても、業界の収益構造が変わらない限り、効果は限られている。行政にとって、より重要なのは、このような経営の多角化支援である。

 複業化支援策は、公共工事縮小を受けた建設業界のセーフティーネットのような印象も 受けるが、本業を補う「副業」にとどまらず、収益の柱となる本業が複数あっていい。建設業の再生は地域経済安定化へ向け、避けて通れない重い課題である。軌道に乗せるには、モデルとなる成功事例を着実に増やしていく必要がある。

 県の建設業複業化支援プログラムは上限500万円の補助や低利率の制度融資などが受 けられる仕組みで、今年度は9件が採択された。能登ワインの白ブドウ生産やソバ栽培、屋上緑化の環境ビジネス、珪藻土のインテリア販売などである。試行錯誤の段階とはいえ、参入分野は建設会社がもつ技術やノウハウ、人材が幅広い分野で生かせる可能性を示している。

 建設業は地場産業であり、災害復旧などでも欠かせぬ存在である。建設市場が縮小し、 一定の淘汰は避けられないとしても、地方には必要なインフラ整備も多く、建設業が足腰の強い産業に生まれ変わることが求められている。

 農商工連携も進むなかで、複業経営は地域活性化の重要なキーワードになってきた。県 は業界ごとの産業革新戦略を練っているが、これからは業種を超え、行政の縦割りを排した部局横断的な地域産業戦略が一層重要になる。