LDの理解と支援 | 海津亜希子 |
---|
【PDFファイル】
LDとは
LD(学習障害)については,平成11年に文部省(現,文部科学省)より「学習障害児に対する指導について(報告)」が公表されている.その定義が以下である.
「学習障害とは,基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである.学習障害は,その原因として,中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが,視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの障害や,環境的な要因が直接の原因となるものではない」
LDは,主に学習面で様々なつまずきを示す.漢字を読むことは学年相当以上にできても,書くとなると難しく,平仮名ばかりの作文になってしまったり,計算問題は得意でも,図形問題になると手が出なくなってしまったり・・・.これらは,全般的な知的発達の問題でも,環境が直接の原因でもない.その背景には,認知(情報処理)過程,つまり,情報を「受けとめ,整理し,関係づけ,表出する過程」のどこかに十分機能しないところがあることが推定されている.このような認知過程の部分的な障害であるため,学習面での得手・不得手の差が大きく,また各々現れる状態像が一様でないゆえ気づかれにくい.
LDへの支援 −特別な指導配慮−
LDの子どもの中には,見て理解すること(視覚的に情報を処理すること)は得意でも,聞いて理解すること(聴覚的に情報を処理すること)が苦手な子もいれば,その逆の傾向を示す子もいる.
視覚的に情報を処理することが得意な子どもは,ことばによる説明だけではよく理解できなかったとしても,その内容を絵や実物で示してもらったり,実演してもらうとすぐに理解できる場合がある.逆に聴覚的に情報を処理することが得意な子どもは,見ただけではどう手をつけたらよいかわからない場合でも,ことばによって一つ一つ説明してもらうと理解できたりする.
すなわち,一見,子どもの方に理解が難しい様子が見て取れても,理解してもらいたい内容の提示の仕方を変えることで,理解が促せることも多い.“聴覚的に情報を処理することが得意な子ども”には,「絵よりもことばでの説明」「言語的・逐次的な説明」が有効である.例えば,「一つめには○○をします.二つめには△△をします」というような継次的な説明が入りやすかったりする.このような子どもの場合,視覚的な情報を自分で的確に分析することが難しいので,情報を言語化してあげる(ことばにし直す)のもよい.
一方,“視覚的に情報を処理することが得意な子ども”には,「ことばより絵による説明」が有効である.ことばで詳しく説明するよりも,完成したものを見せてしまって,「今日はこういうことをします」と伝えた方が,子ども自身も全体的な把握が促され,何をすべきか把握しやすくなるであろう.
日頃の子どもの様子をよく観察し,子どもがどのようなタイプか,どのようなやり方を得意とするかをまずはおさえる必要がある.それを行ったうえで,次の段階として,子どもが「わからない」という様子をみせたときには,別の方法で提示した場合にはどうかを再度考えてみることが重要である.
LDへの支援 −一般的な指導配慮−
LDの子どもたちには,彼(彼女)らの得意なタイプに合わせて指導方法のアプローチを変えることはもちろん大切である.しかし,このような特別な配慮だけでなく,一般的に「わかりやすい教え方,子どもが取り組みやすいやり方」,つまり,一般的な指導原理を駆使することで,効果は十分期待できるであろう.
例えば,「子どもが能動的に取り組めるような学習」を設定することが挙げられる.これは,子どもがやらされていると思うのではなく,自分から進んで取り組んでいるという気持ちになるような学習の持ち方である.
「スモールステップ」も,LDの子どもの指導に際しては重要である.これは,クリアーしてほしい課題を,その子に応じた適切なステップに細分化し,着実にクリアーできるように導くことである.例えば,一つ一つの段差が大きいと,なかかなか上れないが,段差が小さければ,たとえ数は多くなっても,着実に上りきれるといったイメージである.ただ,そうは言っても,本人の状態像にそぐわず,あまりに簡単に,かつ細分化しすぎても,子どもはそれに対して手応えがなくなってしまい,上るのをやめてしまうといったことも起きてくる.少し頑張ればできそうな,その子の今の力より,少し頑張ってクリアーできそうな目標を設定するとよいだろう.
また,子どもに対して「即時にフィードバック」することも大切なポイントである.フィードバックというのは,子どもが行ったことに対して,何かしらの評価を返すことである.その際,正解しているか,していないかということだけでなく,「今の発言のこういうところがよかったね」など,具体的にどういうところがよかったのかを即座に返してあげることで,自分の中に良いモデルを積み上げていくことが可能になる.
さいごに,これは言うまでもないことだが,「繰り返し」行うということである.子どもが知識や技術を獲得し,その知識が安定するまで,繰り返し,繰り返し行うことが重要である.