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障害のある子どもの教育について学ぶ

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LD等の子どものための心理アセスメント 海津亜希子

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LD等のある子どもたちが示す様々なつまずきの背景には,情報を「受けとめ,整理し,関係づけ,表出する過程」のどこかに十分機能しないところがあるからと言われている.このような子どもたちの内側で行われているはたらきについて,どういう部分はうまくいっていて,どういう部分がスムースでないかを把握するために,「心理アセスメント」が用いられる.ここでは,その中から代表的な検査2つを紹介する.

WISC−V

1つめは,WISC-Vという心理検査である.これは,ウェクスラーという心理学者によって開発された検査であり,国際的にも最も広く使用されている.どのような検査で構成されているかというと,「耳から情報を受け取って,ことばによって応答する(例:口頭で提示された単語の意味を答える)」言語性検査と,「目から情報を受け取って,動作によって応答する(例:積木を使ってモデルと同じ模様を構成する)」動作性検査からなっている.

この検査でわかることの1つは,その子の全般的な水準(全検査IQ)がどれくらいであるかということである.さらに,WISC-Vでは,個人の能力における“強い部分”と“弱い部分”を知ることができる.例えば言語性検査から得られるIQの方が(動作性検査から得られるIQに比べて)有意に高ければ,その子どもは言語性検査の性質上「“聴覚処理”が優位」といった仮説が立つわけである.

また,WISC-Vでは,4つの群指数の値(「言語理解」「知覚統合」「注意記憶」「処理速度」)もわかるようになった.これは,言語性(動作性)検査のなかでもさらに似たような性質をもつ検査同士がまとまって算出されるため,より細かい特徴が明らかになってくる.例えば,同じ言語性IQを構成している群指数の「言語理解指数」と「注意記憶指数」の間でも値に大きな開きがみられることがある.「言語を理解する能力」は優れているが,「記憶力」が弱い場合と,「記憶力」は優れているけれども「言語を理解する能力」が弱い場合とでは,その子への対応・支援の仕方が随分と変わってくる.

それぞれのIQの値がどれくらいかということだけでなく,それぞれの値の差(その子がもっている能力の凸凹)が明確になるところが,WISC-Vの有用なところといえる.

K−ABC

2つめは,K-ABCという検査である.この検査は,LDの研究でも著名なカウフマン夫妻によって開発された. 検査の構成であるが,「新奇な問題を解決する際の能力を測ろうとしている(例:部分的に欠けた絵を見てそれが何かを答える)」認知処理過程尺度の検査と,「蓄積されてきた知識と技能を測ろうとしている(例:ひらがなや漢字で書かれている語を読む)」習得度尺度の検査からなっている. K-ABCの大きな特徴の1つは,心理学的な見方の「認知処理(K-ABCでいうところの知能)」と教育的な見方の「習得度」の水準を明確に分けて算出できるところである.さらに,WISC-Vと同様,これらを比較し,両者の差を明らかにすることも可能だ.例えば「認知処理」が「習得度」に比べて有意に高ければ,その子どもが本来もっている知的な能力を日常生活や学校での学習場面において十分に適用できていないといった解釈にもつながるであろう.

2つめの特徴としては,その子がもつ情報処理の仕方(「継次処理」「同時処理」)がわかることが挙げられる.「継次処理」とは,1つ1つ順々に分析しながら処理する能力(例えば,ことばを聞き取るような場面での処理)であり,「同時処理」とは,まずは全体としてとらえ,その中で関係づけしていく能力(例えば,絵を見る場面での処理)と言える.この検査でも,それぞれの水準がわかるとともに,両者の比較,加えて「習得度」との比較も行うことができる.つまり各処理能力が学習場面において十分活用されているかをみることができる.

また「継次処理」「同時処理」というとらえ方は指導方略とも直結しているため,両者の間で有意な差がみられる場合,その子どもの得意な処理様式に合わせた指導を提案することも可能である.例えば,「継次処理」が優位な場合は順序性をふまえた教え方や,聴覚的・言語的な手がかりの重視,一方,「同時処理」が優位な場合には,関連性をふまえた教え方,視覚的・運動的手がかりの重視などが考えられる.

検査を実施する際に留意しなければならないこと

これらの検査は大変有用であるが,実施に際しては,各検査1時間前後を所要する.したがって,子どもにとっても,大きな負担になることは否めない.そこで,検査をとったからには,有意義な情報をできるだけ引き出さなければならない.

また,検査者の側も,検査結果の数値だけでなく,検査中の子どもの行動観察(注意集中の具合やなど)や,応答の仕方などの情報もプラスαして,より真に迫る状態像の解釈をめざす必要がある.

そして,これらの結果を,保護者を初めとする子どもを取り巻く人々に対し,どうわかりやすく,説得力をもって伝えていけるかについても考えていくことが重要である.

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