国会は衆参両院で代表質問が行われた。菅直人財務相の財政演説に対する代表質問だったが、野党の追及は小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体をめぐる「政治とカネ」と、この問題に対する鳩山由紀夫首相の政治姿勢に集中した。
異口同音に「説明責任を果たせ」と迫る野党に対し、首相は「小沢幹事長の潔白を信じている」の一点張りだった。野党の反発や世論の批判を覚悟のうえで、小沢幹事長の続投を決断した首相にしてみれば、「いまは耐え忍ぶときだ」と思い定めているのだろう。
しかし、もはや「嵐が通り過ぎるのを待つ」では到底済まない情勢である。いや、むしろ、雨脚は強まり、風圧も高まっていると認識すべきではないか。
小沢氏の元秘書だった現職の国会議員が逮捕されるという事件の衝撃もさることながら、私たち国民がさらなる驚きと戸惑いを禁じ得ないのは、その政治的な反動のように、唐突に浮かび上がった「政権対検察」の異様な光景である。
小沢氏は民主党大会で検察の捜査を強く批判し「全面的に対決する」と宣言した。驚きだったのは、検察を含む国家行政の最高責任者である首相が、その小沢氏に面と向かって「どうぞ、戦ってください」と激励したことだ。
この首相発言は代表質問でも再三取り上げられ、自民党は「検察への圧力ではないか。指揮権発動を言いたいのか」と真意をただした。
首相は「検察への圧力の意図はない。指揮権発動は考えていない」と釈明に追われた。言うまでもなく、首相の発言が及ぼす影響は計り知れない。答弁通り、検察に圧力をかけるつもりはなかったにしても、軽率とのそしりは免れまい。
まだ事件は捜査中なのに、法相の検察への指揮権発動が国会で取りざたされること自体、異常と言わざるを得ない。
さらに驚いたのは、検察からマスコミに捜査情報が漏れているのは問題だ-として、民主党が弁護士資格を持つ国会議員による「対策チーム」の設置を役員会で決めたことだ。
怒りの矛先を検察やマスコミ報道に向ける算段だとすれば、「お門違い」も甚だしい。民主党がいま取り組むべきなのは、小沢氏に説明責任を果たすよう説得し、場合によっては党独自の調査で自浄能力を発揮することではないのか。
電波・放送行政の監督権限を持つ原口一博総務相が、「関係者によると」という報道は情報源が不明確だ-として公共の電波を使うのは「不適」と指摘したことにも、「国民の知る権利」の視点から同様の危うさを感じる。
取材源の秘匿は報道機関が自主的に判断すべきことであって、総務相が許認可権を盾に指図することではないはずだ。
やはり、何かがおかしい。多くの国民が、素朴な疑問とえたいの知れない不信を抱き始めたことを、鳩山政権はもっと深刻かつ敏感に察知すべきである。
=2010/01/21付 西日本新聞朝刊=