米国のオバマ大統領が20日、就任1年を迎えた。「変革」を訴え国民の熱い期待の中で登場したが、国内外の厳しい「現実の壁」に直面し、肝心の変革は思うように進まない状況が続いている。
就任時には米国民の76%が「オバマ氏による米国変革」を期待していたが、米有力紙の直近の世論調査では、実際に「変革をもたらした」と感じている国民は50%にとどまった。
期待がしぼむのと比例して支持率も50%を切り、就任1年後の大統領としては歴代政権の最低水準に落ち込んだ。
本来、民主党地盤とされるマサチューセッツ州であった20日の上院補選で、民主党候補が敗れたことがオバマ政権の現況を象徴している。
不人気の要因は、10%に達した失業率と政権が変革の目玉に据えた医療保険改革への国民の不満と反発だ。
7800億ドル(約71兆円)を超える巨額の景気対策法による公共投資の効果が出るのはこれからだろうが、国民には政府の対策が後手に回り景気回復が遅れていると映る。もう一つの柱である減税も、景気に対する将来不安から消費の本格的な回復にはつながっていない。
空前の財政赤字を抱え、政府による内需喚起が限界に近い状況の下で景気をどう回復させていくか。経済運営は2年目以降も難しい課題となる。
医療保険改革も、政府の医療費支出の是非をめぐり国民の賛否が真っ二つに割れている。改革法案は2月中には成立の見通しだが、改革の柱である公的保険制度の創設は保守派の強い反対の壁に阻まれ、見送らざるを得ない状況だ。
現実の壁は、ブッシュ政権の単独行動主義への反省から国際協調に転じた「オバマ外交」の前にも立ちはだかる。
「核なき世界」追求の先頭に立つと宣言し、背を向けていた地球温暖化防止のための枠組み条約への復帰も表明した。理想の実現や紛争解決に向けて、対話と協調を重視する米政権の登場は、世界の人々に将来への希望を与えた。
オバマ氏へのノーベル平和賞授賞の理由も、そこにあった。が、何一つ実現したわけではない。核抑止を軸とした米国の世界戦略は変わらない。温暖化防止への対応も腰が引けたものだ。中東和平交渉や核兵器開発に執着する北朝鮮やイランとの交渉も前に進まない。
アフガニスタンでの対テロ戦争は泥沼化し、米軍3万人の増派を余儀なくされた。当面は意に反して「ブッシュの戦争」を引き継いでいくことになる。
核軍縮・不拡散、温暖化防止、テロとの戦い。いずれも米国の軍事、経済上の安全保障が密接に絡むだけに、米国内にはオバマ政権の柔軟・協調路線に強い警戒感がある。
「オバマ外交」のジレンマも、そこにある。世界の平和と安定に向けてオバマ政権をどう支えるか。日本を含む国際社会の課題でもある。
=2010/01/21付 西日本新聞朝刊=