「同盟の深化」。日米安保条約の改定50年で、日米両国が発表した共同声明のキーワードである。アジア太平洋地域の平和と安全に貢献するのはもちろん、グローバルな課題や脅威にも緊密に協力していく、とうたう。
11月の首脳会談までに両国の当局者で議論し、具体的な中身の合意を目指すという。「深化」がどう進むのかは、在日米軍基地の在り方にもつながってこよう。
なぜ米軍基地があるのか。今の規模が本当に必要なのか。こうした根源的な議論を深める好機にもしなければならない。
米軍は極東を守る。そのために日本政府は基地を提供する。これが安保条約である。冷戦時代は、在日米軍が旧ソ連などの脅威を封じ込めた。日本は防衛費を最小限に抑え、経済成長に投資できた。国全体からすればそんな評価もできよう。
ただ基地周辺で暮らす多くの住民の思いとなると別だ。日本人従業員の雇用などの経済効果はあるにせよ、騒音や事件・事故のリスクを伴う「迷惑施設」でもあった。半世紀を振り返るとき、その側面を忘れてはなるまい。
沖縄ほど基地は集中していないが、中国地方も戦略上、重要な役割を担ってきた。岩国基地は戦場へと真っ先に出ていく海兵隊の航空拠点。東広島市の川上弾薬庫は極東最大の規模だ。安保条約とセットで発効した日米地位協定によって、中国山地は飛行訓練の舞台にされている。
旧ソ連という仮想敵がいた時代なら、米軍がいる理由もそれなりに理解できたかもしれない。だが冷戦が終わっても在日米軍の役割は拡大していくばかり。特に9・11テロ以降は「極東」をはるか越えた中東をにらむ戦略拠点としての意味合いが強まっている。
なし崩しともいえる変化を、日本政府は国民に十分説明してきたとはいえまい。
その象徴が、4年前に日米合意した米軍再編だろう。テロなどの脅威に備え、日米の一体化を加速する狙いもある。岩国へは空母艦載機部隊の移転が持ち上がった。
密室で決めた中身を押しつけられて、各地の自治体が反対の声をあげた。しかし政府は「アメとムチ」による強引な手法で推し進め、不信感を残した。
その教訓を生かし、今後の日米協議はプロセスを明らかにしてほしい。北朝鮮や中国を含めた情勢をどう分析し、どれほどの脅威と備えを見込むか。米軍駐留経費の負担や地位協定は、今のままでいいか。国民の腹に落ちるような説明が求められる。
安全保障はこれまで、国の専管事項とされてきた。しかし基地のある自治体の意見を反映する仕組みも必要ではないか。
共同声明では「核兵器なき世界」を掲げつつ、抑止力の維持を明言した。被爆地であり、広域都市圏に米軍基地を抱える広島市には、国の核政策はもちろん、安全保障政策にも注文をつけるぐらいの気構えがほしい。
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