市長が直接、市民から新年度予算への要望を聞く公聴会が名古屋市で開かれた。全国で広がる地方自治改革の試みの一つ。多数決ばかりでなく、異論や反論、小さな声にも耳を傾けたい。
都道府県や市町村で今、新年度予算案づくりが大詰めを迎えている。でも、なぜこの事業を行い、これだけの金額が必要なのか、といった決定過程は、住民には見えないブラックボックスだ。
海外では、ブラジル南部のポルトアレグレ市が始めた「市民参加型予算」が成功例だ。各地区の住民代表が事業に優先順位をつけて持ち寄り、「ガラス張り」の公開の場で予算に入れていく。その結果、貧困地区では下水道などの整備が急テンポで進み、生活向上につながった。
国内では名古屋と同じ十八政令市のうち、既に大阪や横浜など六市で、本格編成の前段階になる各部局の予算要求内容を公開している。このうち札幌、北九州両市は、市民の意見も受けつけている。
「生の声を市長に」という今回の公聴会、パブリックヒアリングは、庶民革命を掲げる河村たかし市長が発案した。大都市ではまだ例がない。
日曜日だった十七日の公聴会には、事前に申し込んだ市民二百五十人が参加した。三時間、たくさんの挙手の中から二十一人が発言した。
いったん凍結したものの、建設を決めた陽子線がん治療施設には「巨額の赤字分を産科や小児科に回せば、救える命の数はもっと多い」と反論が出た。市長は「建設をやめても五十数億円の損害賠償を払わねばならない。本当に悩ましい決断」と本音を吐露した。
胸に響いたのは、小さくとも切実な声だ。「親が死んだら誰が娘の面倒を見てくれるのか。調査費七百万円が付いた重症心身障害児者施設の建設を早く」。娘の将来を案ずる母親は声を震わせた。
河村市長は今後、市長査定を行い、二月議会に提出する最終案を確定させる。既に大枠は固まっており、どれほど修正できるのか疑問視する声もあるが、市民の声が聞こえてくる予算にしてほしい。
財源は限られる。何を始めるにも、廃止するにも住民の納得は欠かせない。
多数決だけで決めていくのでは、きめ細かさを失う。異論や反論も受け止められ、小さな声がくみ上げられてこそ、民主主義の意義がある。
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