マンガと法律 9th 髪の色
テーマ:マンガと法律ビーバップ・ハイスクール やろくでなしブルース などヤンキーものについては、リーゼントやパンチパーマといった髪型が目立ちます。
また、近時のいわゆる美少女アニメやゲームのヒロインの多くの緑や青といった、ありえない髪の色。
→いわゆるまじめキャラもありえない髪の色をしている。これは何故だろうか。
このように、学園モノに登場するキャラの多くは独特な髪型・髪の色をしています。
こうした髪は校則違反となり、度が過ぎると懲戒事由となります。
→アニメやマンガで髪型それ自体をとがめるシーンは実はあまりない。
さて問題です。
Y高等学校の生徒であるXはアニメキャラのコスプレが趣味である。Xはこの日、学校帰りにコスプレイベントに参加するために、コスプレ用の衣装を用意して、登校した。しかし、頭髪については、帰宅してから染め直すのでは時間がないという理由で、コスプレキャラの髪の色である鮮やかなコバルトブルーにあらかじめ染めて登校した。そのことを生徒指導教諭に注意されたが、理由を説明し元の黒髪に戻す意思がないことを伝えた。後日、かかる頭髪着色行為を原因として、Xは懲戒処分を受けた。
(1)Y高校は都道府県立公立高校である場合と、私立学校の場合との区別。
(2)懲戒処分が訓告である場合と1週間の停学処分、退学処分との区別。
(3)校則に頭髪について具体的記載があり、それの違反が懲戒事由となる場合と、頭髪についてなんら校則に規定はなく、ただ漠然と「学校の風紀・秩序を乱した場合」のみを懲戒事由とする場合との区別。
(4)Xの普段の素行(コスプレ以外については極めてまじめである場合と、普段から素行不良であった場合)による区別。
(5)懲戒処分について、事前の告知・聴聞・弁明等の手続が履践されている場合といない場合の区別。
よく、司法試験や定期試験などでは、憲法上の問題として頭髪の自由が出題されることがあります。
→そもそも論として、頭髪の自由が憲法上の自由権として保障されるものなのか検討する必要がある。これを認める見解としては、13条、21条などがある。人格的利益にあたらないとして否定する見解も有力にある。
想起されるのは、いわゆる修徳高校パーマ退学事件判決(平成8年7月18日最高裁第一小法廷判決)でしょうか。
→この修徳高校は私立学校なので、間接適用説にしたがって、憲法の直接適用は避けている。
問題事例はパーマではなく、コスプレということ。
パーマのように継続的なものではなく、一時的に着色したものであること。
Xとしては、こうした事情から先の判例の射程範囲外だということを主張することになろうか。
→さらに、着色するのに時間がかかり、あらかじめそれをしておく必要性があることを主張する。
Yの反論としては、一時的とはいえ青色の髪の生徒が校内をうろつくと、校内の風紀・秩序が乱れる。
たとえ私的行為の範囲(コスプレイベントでの参加)といえども、頭髪の着色は許されない。
→コスプレイベント参加それ自体否定する主張も考えられる。もちろん、Yの校則の内容によってはそれも可能であろう。このとき、生徒の学外活動の自由について問題となるが、これについて、小泉麻耶写真集退学事件(平成20年2月27日東京地裁判決)などが参考になろう。
私人間効力論が妥当するにせよしないにせよ、結局はXとYの利益衡量だと思います。
→この点で、近時私人間効力論について見直されているということについては法科大学院生や司法試験受験生ならご存知かと。
さらに、内部的な処分については、部分社会論により司法審査の対象外であるというYの主張も考えられます。
→富山大学事件などを想起できるであろう。
ただ、こうしたケースで生徒が学校の処分を争ってもなかなか勝てないのが現状のようです。
生徒諸氏はいらんこと考えずに、ただわき目も振らずに勉強しろ、ということなのでしょうか。