「COLD JAPAN(コールド・ジャパン)」

COLD JAPAN(コールド・ジャパン)

2009年11月4日(水)

実は“下り坂”のジャパン・アニメ〜騒いでいたのは関係ない人たちだけ

関係ない人の自己満足コールド・ジャパン症例〈自己満足〉型

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 「巣ごもり」「ガラパゴス」等と揶揄される「コールド」なニッポンの現状を最新の事例やケース=症例を豊富に取り上げながら理論的な切り口で分析、《コールド・ジャパン》脱却と新たな成長のための〈処方箋〉の提言をめざした本連載。開始早々から多数の反響やコメントを得るシリーズとなった。

 前回前々回において官僚たちの「保護」と「コールド・ジャパン」の因果関係を紐解くことをめざしたところ、「保護されていない」分野では多数の世界進出例が見当たることが読者たちより指摘された。

 はたしてそれは、本当だろうか?

 筆者たちの研究によれば、「クール=カッコいい」ジャパンと自己満足的に呼んでいるわりには実際の現場に携わっている人たちは冷え切っており、「もうこれ以上、売上も利益も延びない」と諦めかけている声をこれまで多数集めてきた。

 「日本はがんばってきたんだ。」「保護を批判して何になる?」そんな意識もある一方で、疲弊しきっている数々の現場やビジネスがあることも事実。それでは、何をすればよいのか。本連載は、これまで寄せられた読者のご指摘を踏まえ、今後アニメ・マンガ、自動車・家電、さらにさまざまな「コールド・ジャパン」の現実を突きつけた上でその解を探っていく。新たな政権の環境下、気分一新してこれからの成長を模索している企業の経営幹部やキーパーソンの方々のヒントになれば望外の喜びである。


 アニメの殿堂は、つくらない。

 新しい政権が発足し文部科学省大臣となった川端達夫文科相。9月22日におこなわれた補正予算見直しヒアリングにおいて、民主党が「アニメの殿堂」と批判していた「国立メディア芸術総合センター」(仮称)について「メディア文化が重要という認識は同じだが、方法論が違う」として、文化庁に別の案を示すよう求めたという施設の建設はしないと明言しました

 それでは、どんな「方法論」が必要なのでしょうか。

 あるいは、ほんとうは「アニメの殿堂」をつくるべきなのか。

 いや、そもそも本連載の標題にも使われている「クール・ジャパン」とも呼ばれるニッポンのマンガやアニメはいまどのように世界進出を果たしていて、これからどのような成長が期待されているのでしょうか?

 第1回・第2回の連載を通じて頂戴したご指摘の中でも、「保護なくして成長する産業」や「行政の指導や政治家の政策とは無関係」に「世界でも勝つ」「良いもの」としてゲームやアニメが挙がりました。

 トヨタやホンダ、ソニーなどと並び、日本人が「ニッポンが頑張っている」と感じている筆頭の1つとして「クール・ジャパン」は必ず例に出されます。

 では、はたしてどれほど「成長」し、「世界で勝」っているのか。その現状を知らずして、今後の成長支援の「方法論」を描くことはできません。

 まずは、その現状を見てみましょう。

世界に広がるアニメ・マンガ・・・

 ハリウッドに住み、日本映画の世界戦略のお手伝いをしています、とお伝えすると、100人中100人から「ニッポンのコンテンツは“クール・ジャパン”と呼ばれているそうですからね。やっぱりハリウッドで人気が高いのですか?」と尋ねられます。おそらく、これが一般ビジネスマンの認識でしょう。

 確かにニッポン発のアニメやマンガは若いハリウッド・プロデューサーたちを中心に人気が高いことも事実です。特に、映画化するネタに困窮し、国内のベストセラー小説や「スパイダーマン」などの古いグラフィックノベルに頼りがちな映画業界において、ニッポンのアニメ、マンガは“隠れた金脈”と考え熱烈なラブコールをかけてくるプロデューサーもいます。

 アメリカのみならず、フランスやイタリアなどのヨーロッパや韓国、香港などのアジアにおいてもアニメ、マンガは一部のコアなファン層がいることは、コンテンツ業界にそれほど詳しくない企業の経営幹部の方でもなんとなく見聞きしておられると思います。

2006年にパリで開催されたJapan Expoの様子© AP Images
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 金髪の女の子が「ドラゴンボール」や「NARUTO」などのコスプレをしてファンの集会に駆けつける様子や、マンガが英語や他の言語に訳され「日本と同じように右から読む習慣まで浸透している」と記者が興奮してレポートしているニュース映像や記事をご覧になった方は多いでしょう。

 こうした状況を背景に、日本の政府もアニメやマンガなどのポップカルチャーをニッポン発の新たな産業にしようと“クール・ジャパン”というキーワードを掲げ、日本の成長戦略に組み込み始めています。

マンガが世界に広がっていると誰が言った?

 「マンガ好き」と言われた前の首相は退陣前の7月に、こう発言しています。

 「若者が持っているコンテンツは、アニメーション、CD、写真、コミックなどたくさんある。(だが、コンテンツが)いくら金を稼ぎ出しているか、わかっていない人が多い。ハリウッドが映画のメッカなら、秋葉原をコンテンツのメッカにすればいい」(産経ニュース 2009年7月25日

 ほお。それでは、日本のコンテンツが「いくら金を稼ぎ出しているか」、ちょっと調べてみましょう。

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著者プロフィール

細山 和由(ほそやま・かずよし)

ウェイクアップ・ニッポン!プロジェクト代表。日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)にて米国債・各種デリバティブのトレーディングを担当した後、ITベンチャーへ。ITコンサル会社の起業、投資顧問会社勤務を経て、フリーライターとして日経ビジネスアソシエなどに寄稿。その後、上場企業のCFOとして在任期間中に時価総額を10倍以上に押し上げることに貢献。日本経済の最前線での経験や上場企業で学んだ経営ノウハウ等を生かし、現在はスタートアップ企業のインキュベーションを行っている。一橋大学経済学部卒。東京在住。

黒澤 俊介(くろさわ・しゅんすけ)

ウェイクアップ・ニッポン!プロジェクト副代表。ソニー出井伸之氏の社長・会長時代におけるリ・ジェネレーション(再生)戦略のフラッグシップスタッフとして、VAIO、So-net、メディアージュ、スカパー!など矢継ぎ早に新規事業立ち上げに成功。さらに元マイクロソフト・ジャパン社長の成毛眞氏率いる投資ファンド、携帯ITベンチャーなどで米国・欧州と日本を結ぶ企業を次々に設立、取締役、創業時の社長を歴任。現在は日本映画の米国進出支援ビジネスをリードしている数少ない日本人の1人。東京大学経済学部卒。LA在住。


このコラムについて

COLD JAPAN(コールド・ジャパン)

新たな政権を迎え、気分も新たに成長を進めようとしているニッポン。しかし、一方で停滞する国内市場のもと喘いでいる企業も多く景気の先行きが不安視されている。つまり、「クール=カッコいい」ジャパンと自己満足的に呼んでいるわりには内情は冷え切っており、なにか新しい世界との関係や突出したビジネスを誰もが渇望してやまない状況となっているようだ。本連載では、最新の事例やケース=症例を豊富に取り上げながら、「巣ごもり」「ガラパゴス」等と揶揄される「コールド」なニッポンの現状を理論的な切り口で分析、《コールド・ジャパン》脱却と新たな成長のための〈処方箋〉を提言していく。本連載が、国内市場の凋落を前に、気分新たにこれからの成長を模索している企業の経営幹部やキーパーソンの方々のヒントになれば望外の喜びである。

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