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社説2 政教分離を厳しくみた最高裁(1/21)

 憲法で定める政教分離原則をめぐる裁判で、最高裁では2例目になる違憲判決があった。「一般人の目から見て、特定の宗教を援助していると評価されるかどうか」との新たな基準によって違憲判断をした点が注目される。

 北海道砂川市の市有地に無償で、地域の集会場と一体になった神社が建てられ、祭礼などの宗教行事が行われていることが、憲法89条(公の財産の宗教上の組織への支出制限)に違反するか否かが争われていた。

 最高裁が判決で述べた考えは、およそ次のようなものだ。

 集会場・神社の建物や鳥居、ほこらなどの神社施設は地元の連合町内会の所有だが、祭礼などは連合町内会とは別個の存在の宗教団体である氏子集団が行っている。従って、市有地の無償提供は、一般人の目から見て、砂川市が特定の宗教団体に対して特別の便益を提供し援助していると評価されてもやむを得ない。これは憲法89条違反で、ひいては憲法20条が禁じる、宗教団体への特権の付与にも該当する。

 政教分離原則に反するか否かを、裁判所は、1977年に最高裁が津地鎮祭訴訟で示した目的効果基準に照らして判断してきた。「国などの行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長または圧迫、干渉になるか否か」の物差しにあてるのである。

 政治的な影響が大きい靖国神社、護国神社を巡る訴訟ではない今回の事例について、目的効果基準だけで違憲性を考えてみよう。

 すると、藤田宙靖裁判官が補足意見で指摘したように「宗教施設としての存在感が大きくない点を重視するなら、市有地の無償提供が直ちに他の宗教あるいはその信者らに対する圧迫、脅威となるとまではいえず、あえて憲法違反を問うまでのことはない」とする判断も可能だろう。

 明らかに宗教施設である神社に市が敷地を無償で提供する行為が政教分離原則に反しない、という不自然な結論にたどり着くのを避けるために最高裁は、目的効果基準のみにこだわらず「一般人の目」という新たな物差しを持ち出したようだ。政教分離規定を厳しく解釈した判決といえよう。

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