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社説:市有地に神社 最高裁の「違憲」は妥当だ

 神社の敷地として市有地を無償で使わせることなどは、憲法が定める政教分離の原則に反するか。

 最高裁大法廷は「特定の宗教に対して特別の便宜を提供し、援助していると評価されてもやむを得ない」と違憲判断を示した。14人中9人の考え方だ。

 憲法は、国やその機関の宗教的活動を禁じ、宗教上の組織への公金支出も禁止している。いわゆる政教分離の原則である。

 靖国神社公式参拝などをめぐり、原則が緩やかに解釈される司法判断が一時、定着しつつあった。だが、大法廷は97年の「愛媛玉ぐし料訴訟」判決で違憲判断を示し、流れに歯止めをかけた。今回、大法廷が政教分離の原則に従い、公的機関と宗教とのかかわりに改めて明確な線を引いたのは妥当な判断といえる。

 問題となったのは、北海道砂川市内にある「空知太(そらちぶと)神社」だ。

 市からの補助金で、町内会館と一体となった施設が市有地に作られ、市は土地の無償使用を認めてきた。鳥居やほこらもあり、例大祭の際、神式の行事も行われていた。

 「愛媛玉ぐし料訴訟」では、戦前の国家神道の中枢的存在である靖国神社への公費の玉ぐし料支出の是非が問われた。それに比べ地域住民に密着する神社への便宜だ。問題視することに違和感を覚える人もいるかもしれない。

 事例は異なるが、最高裁小法廷はかつて、無償提供された公有地に地蔵や忠魂碑が建てられたケースについて合憲判断を示している。

 「(地蔵の維持は)伝統的習俗的行事にとどまる」「(忠魂碑の再建、土地提供などは)世俗的」などの理由だ。だが、判断に当たって明確な基準を示すことはなかった。

 大法廷は今回、国公有地を無償で宗教的施設の用地として提供する場合について「施設の性格、提供の経緯、態様、それに対する一般人の評価や諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断すべきだ」と、初めて具体的に示した。この点は評価したい。

 ただし、この判断はあくまで用地提供の際の基準であり、政治と宗教とのかかわり合いについて普遍的に規定したものではない。

 政教分離の原則をめぐっては、今後もさまざまなケースで司法判断が求められるだろう。最高裁には、過去の判例にとらわれない時代の変化に即した憲法判断を求めたい。

 判決は、審理自体は差し戻した。市長には、施設の撤去や土地の明け渡し以外に、有償での譲渡・貸し付けなどの解決方法をとる裁量があるとの理由だ。地域で話し合ってよりよい解決を図ってほしい。

毎日新聞 2010年1月21日 東京朝刊

 

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