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社説:オバマ政権1年 初心に戻り「チェンジ」を

 オバマ人気のかげりを象徴するような出来事である。ケネディ米上院議員(民主)の死去に伴う19日のマサチューセッツ州上院議員補選は、共和党候補が民主党候補を抑えて勝利した。ケネディ氏は同州で上院議員を45年以上務めていた。いわば「ケネディ王朝」のおひざ元、民主党の牙城での敗北である。

 20日で就任1年のオバマ大統領への打撃というより、オバマ政権の不人気が民主党候補の足を引っ張った感もある。連邦議会上院で民主党は安定多数(60議席)を割り込み、オバマ政権が力を入れる医療保険制度改革の行方も怪しくなった。何よりも、民主党は11月の中間選挙に向けて大きな不安を抱え込んだ。

 1年前、オバマ大統領は「チェンジ」を掲げて、さっそうと登場した。当時70%近かった支持率が今は40%台で低迷しているのは、多くの米国民が「期待外れ」の印象を持ったからだろう。景気・雇用の改善とともに、世界をリードする存在感が必要だ。近く行われる一般教書演説も含めて、米国や世界の人々の信用と期待の回復に努めてほしい。

 01年の9・11テロ後にブッシュ前政権が始めたアフガニスタン攻撃とイラク戦争。オバマ氏はイラクからの米軍撤退に一応の道筋をつけ、アフガンについても増派と撤退計画を組み合わせた新戦略を示した。情勢は楽観できないとはいえ、前政権からの、硝煙くすぶる出口なき世界の息苦しさは、かなり緩和された。

 それを思えばノーベル平和賞はあながち時期尚早ではない。「核兵器なき世界」演説や米露核軍縮交渉の進展も含めて、オバマ大統領は世界の空気を変えた。地球温暖化防止の対策でも、米国は国際協調へとカジを切った。今後の課題は、オバマ大統領が演説などで打ち上げた構想を着実に、力強く実行することだ。実行力を示せなければ、オバマ氏の人気は急速にしぼむかもしれない。

 日本に限れば、普天間問題をめぐる摩擦の中でも、オバマ大統領が友好的な姿勢を保っているのは評価できる。しかし、流血の連鎖が続くイスラエルとパレスチナの中東和平に関して米国は仲介に消極的だ。核開発を続けるイランと対話するのか国連制裁を強化するのか、オバマ政権の対応は分かりにくい。北朝鮮の核をめぐる6カ国協議も前政権下で宙に浮き、再開のめどは立っていない。

 世界の脅威は前政権時から、ほぼそのまま残っている。未曽有の経済危機の中、内政に力点を置いたとしても、1年前、オバマ氏に期待された「チェンジ」には、世界を平和と安定に導くことが含まれていたはずだ。政権2年目にあたり、まずは初心に立ち返ることが必要だろう。

毎日新聞 2010年1月21日 東京朝刊

 

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