トトロの家：不審火で全焼、跡地が公園に　宮崎駿監督がデザイン　／東京

　◇保存求め６３００人署名も
　アニメ映画の宮崎駿監督の作品にちなみ「トトロの家」として親しまれ、昨年２月の不審火で全焼した杉並区の民家が、宮崎監督デザインの公園として再出発する。３月に着工し、サツキやモクレン科のタイザンボクが咲き出す６月に完成する予定だ。この家で約４０年暮らした元デザイン学校教員の近藤英（えい）さん（８５）は「苦難を乗り越えて生まれた公園。みんなで大事に育てていきたい」と心待ちにする。区役所では１８日から、宮崎監督のイメージスケッチの複製を展示し始めた。【馬場直子】
　この民家は、杉並区阿佐ケ谷北の住宅街の一角にあり、火災前はあふれんばかりの花に囲まれていた。
　赤い屋根にこげ茶色の壁の木造平屋建て。近藤さんの叔父・故謙三郎氏が約８０年前、結婚を機にこの家を建てた。戦前に旧東京市役所に入り、関東大震災からの復興や新宿の都市計画にも携わった謙三郎さんの思いが込められた西洋住宅だ。
　近藤さんがこの家に住んだのは、１９７０年に謙三郎さんの妻が亡くなったのがきっかけ。叔父の世話の傍ら、庭に咲くバラやランの花に見とれた。キンモクセイの木の下の窓辺に座り、「極楽浄土とはこれか」と感じ入った。
　その家はアニメ映画界の大御所、宮崎監督も魅了した。著書「トトロの住む家」（９１年、朝日新聞社）で紹介され、宮崎作品のファンが訪れるようになった。近藤さんは家に迎えてお茶をごちそうし、監督の本で生まれた新しい出会いを楽しんだ。
　謙三郎さんは７５年に死去、近藤さんも０７年７月に隣接する実家に居を移し、家の保存を求める地元住民やファンの署名活動が始まった。約６３００人分が集まり、中には６歳の子供の名前も。区は０８年６月、家と土地を買い取って公園整備を決めた。
　ほっとしたのもつかの間、近藤さんが入院中の昨年２月、不審火で家が焼け落ちた。公園の中心になるはずの家がない。再建の是非に揺れる中、「何かできることがあれば」と区に支援を申し出たのが宮崎監督だった。
　監督は現地に足を運び、昨年７月、出来上がったデザイン画を区に渡した。家の土台は残し、敷地の真ん中には焼け残った赤い瓦を使ったトイレを作る。バラやアカメ、コブシの大木など花と緑があふれんばかりの公園になっている。関連予算が昨年１１月区議会で可決され、整備が正式決定した。
　区は、宮崎監督から受け取った６枚のデザイン画の複製を２２日まで区役所２階の区民ギャラリーで一般公開している。公園全体を見渡したものやトイレのイメージ図、道路から見た公園など。柔らかな線と淡い色彩で描かれた「宮崎ワールド」だ。近藤さんや宮崎ファンの思いを込め、今にもトトロが現れそうな公園が誕生する見込みだ。
〔都内版〕

１月２０日朝刊

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