「権力」というものがあるのは当然だけれど、強制力を持っているだけに、その行使は極めて抑制的でなくてはならない。それが戦後憲法の柱の一つであり、民主主義の原則だと信じてきた。
小沢一郎民主党幹事長の政治資金に関する一連の動きを見ていると、あらゆるところでその原則が揺らいでいるように思える。それを憂う。
小沢氏からすれば自分を狙い撃ちした東京地検特捜部=捜査権力の暴走と映るのだろう。確かに近年、特捜部に逮捕された経験のある人たちが強引な取り調べを著書などで証言するようになった。特捜部も事件に関して自らもっと説明すべきだと私がテレビで発言しているのは、私も全面的に捜査を信用しているわけではないからでもある。
一方では、その後修正はしたものの、鳩山由紀夫首相が「戦ってください」と政治権力が捜査に介入すると受け取られても仕方がない発言を驚くほど気軽にする。政治資金の問題も含めて「国民は理解してくれたから政権を与えてくれた」と小沢氏は言う。選挙で勝ちさえすれば政治家の行為はすべて許されるとも聞こえる。
もちろん私たちマスコミも「かつて戦争をあおったように、特捜部の尻馬に乗っているだけだ」といった批判には謙虚に耳を傾け、より正確な報道を心がけなくてはならぬ。何より、政権、検察双方が組織防衛のために暴走しかねない今の状況を食い止めるのが私たちの仕事である。
そのうえでこう言いたいと思う。毎年のようにカネの問題が取りざたされる政治からはいいかげんに決別しよう。人々はそれも含めて政権交代に期待したと私は思うが、民主党のみなさん、どうだろう。
毎日新聞 2010年1月21日 0時00分
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