HOME > コラム > 世迷言
世迷言

◆日付
◆キーワード


☆★☆★2010年01月20日付

 達増知事が十八日の記者会見で、民主党小沢一郎幹事長の元秘書だった石川知裕衆議院議員らの逮捕に触れ「逮捕は適当でない」と検察を批判した映像を見て違和感を覚えたのはひとり小欄のみだったろうか▼同知事は、収支報告書の訂正の必要を認めながら「政治資金をポケットマネーで立て替えたことをきちっと報告していなかったのはまずい。だがそれを理由に議員まで逮捕するのは明らかにおかしい」と検察の姿勢を批判した。民主党公認で衆院議員に当選し、その後無所属で県知事に出馬・当選したとはいえ、本籍民主党の人物が同郷の党幹事長を擁護するのは自然ではある▼だが、三権分立の立場から言っても検察が疑惑に立ち向かう行為そのものを批判することは、その存在を認めないに等しい。鳩山首相が小沢氏に「戦って下さい」と激励したその戦う相手が検察という意味かと解釈されて非難が集中したのも、贔屓の引き倒しが司法の存在を否定する危うさを国民は感じ取るからに他なるまい▼いわば捜査途上にあってまだ全体像を現していない問題について、その真相はどうなのかと関心が寄せられている段階において、司法の専門家でもない人物が外部からうかがうだけで結論を語るのは不適切というものである。まして知事という公的立場にあればなおさらだ▼個人としての心情を理解できぬわけではない。だが、県民が全員民主党員でも民主党支持者でもない。ここは「同じ仲間として潔白を信じたい」だけでよかったのだ。

☆★☆★2010年01月19日付

 睡眠薬代わりに、CDでラベルの管弦楽曲「ボレロ」を聴くことにした。あの単調なリズムが快い睡眠に誘ってくれるだろうという読みである。「羊が一頭」よりはるかに音楽的?で効果的だろうと考えてのことだ▼しかし一回こっきりでやめにした。たまに聴けばこその佳曲だが、毎晩では仏の顔もなんとかやらだと気付いたからである。スペインの民族舞踊音楽「ボレロ」は、三拍子の独特なリズムを持つ。そのリズムをそのままタイトルとしたこの曲は、小太鼓の静かな三連符で始まるが、このリズムが徹頭徹尾繰り返されるのがこの曲の「売り」▼初演から大成功を収めたというのも、同じリズムと同じメロディーが執拗に繰り返されるからいやでも曲を覚えるという、意表を衝くアイデアによるところが大だ。むろんただの繰り返しではない。楽器が交代でソロをとり、合奏を次第に膨らませて気分を徐々に高揚させていくというその手法が見事▼中学生の頃、友人の父が自作したアンプと巨大なスピーカーでラベル自身の指揮によるこの曲(むろんSPレコード)を聴かされた時の強烈な印象が忘れられない。同じリズム、音色が変わるだけの曲を覚えられないわけがない。後続が出ないところをみると、やはり非凡な才能、着眼というべきだろう▼教育テレビにスイッチを入れると偶然かそのボレロをN響が演奏していた。昔のオケなら必ずボロを出していたこの曲を難なくこなしていて、歳月の変化を感じる。ところが「不況」という同じリズムを執拗に繰り返す当節の変化のなさの方はなんとかならぬものか。

☆★☆★2010年01月17日付

 小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入問題を捜査中の東京地検特捜部は十五日、政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で小沢氏の元私設秘書二人を逮捕、西松建設事件で公判中の公設秘書も再逮捕された▼秘書三人の逮捕という事態は異常であり、仮に小沢氏自身がまったく知らずにいたとしても、秘書がその意を体して動くことは大いにあり得ることであり、そうした関連をも全面的に否定することはできまい。もしこれが検察の一方的な「国策捜査」というのなら、職を辞してでも法廷で争い黒白をつける筋のものだろう▼しかし小沢氏は法に触れることはしていないと、容疑を一切否定している。その通りだからこそそれ以上の説明は不要、関知しないことに説明責任もあろうはずがないという態度を貫いている。では検察はありもしない容疑で逮捕という人権侵害まで冒すのだろうかというのが一般の抱く素朴な疑問でもある▼この問題で鳩山首相と小沢氏が会談、小沢氏の続投が決まったという。つまりトップ二人の認識の中にはこの問題についてグレーゾーンは存在しないということのようである。そうあってほしいが、検察の追及でつじつまが合わない部分が出てきて整合性を維持できなくなったからこそ逮捕となったのではないか▼いずれこのままうやむやに終わることはあるまい。真実はきちんと追及されなければならない。小沢氏が晴れて潔白を証明する日が来るのか、検察が捜査の正当性を証明する日が来るのか、重大な関心を持って推移を見守りたい。

☆★☆★2010年01月16日付

 いかにも中学生らしいあどけなさを宿した十五歳の少女が大人顔負けの記録で冬季五輪出場を決めた。この大器の成長が楽しみ▼北海道出身、高木美帆選手のことで、先に行われたバンクーバー五輪選考会では1500mを1分59秒47の中学新記録で優勝、同種目に加え1000m・団体追い抜きで五輪出場権を獲得した。1500mを得意とするが500mから3000mまでこなし、その強力な足腰と持久力をバネに日本スピードスケート史上最年少での五輪出場を決めた▼兄も姉もスピードスケート選手という恵まれた環境の中で五歳からスケート靴をはいたが、スケートだけでなく七歳で始めたサッカーはいまも続け、しかも中学チームで男子に交じってフォワードのレギュラーを務めているというのだから、天性の素質を持っているのだろう▼スピードスケートといえば、旧ソ連邦、東欧、北欧といった雪国の選手が活躍するスポーツで、テレビがようやく登場した中学時代、冬季五輪だったか世界選手権だったかの中継に毎日見入ったものだった。「ゴンチャレンコ」といった、名前の最後に「コ」のつく選手が多く、男には「コ」のつかない日本人選手は歯が立たなかった▼だが、それも今は昔のこと。これからはフィギュアだけでなくスピード系でも日本人選手が頭角を現すことを高木選手が予告したように思われる。この中学生五輪代表が「得手に帆を揚げて」本邦スケート界を引っ張って行くことに期待したい。

☆★☆★2010年01月15日付

 攻守所を変えると矛と盾の役割が逆転するのが「説明責任」とやら。「野党が与党攻撃する際に持ち出す道具」とでも定義しようか▼これまでは民主党の十八番となっていたが、政権を取ったらすっかり自民党に奪われてしまった。首相、幹事長ともに目下それを求められ「タテ突くか」、「ホコを収めるか」と思案中▼小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入問題で東京地検は小沢氏の個人事務所や陸山会などを一斉に家宅捜索、この中には大手ゼネコンの「鹿島」本社なども含まれることから、一連の金の流れを多角的に追及する検察の狙いがうかがわれる。小沢氏は同じ日「法に触れるようなことをしたつもりはない」と否定したが、むろんこれで説明責任が果たされたわけではない▼鳩山首相の「故人献金」は、結局母親からの「小遣い」と判明したが、その額の大きさといい、事実上の贈与を申告しなかったことといい、政治家としてはむろんのこと、国民としての義務を果たさなかったという未必の故意は重大で、本来なら、いや本来ならずもこれは脱税にあたる▼これは千円単位の臨時収入でも確定申告をさせられる納税制度を否定するに等しく、上がやってみせれば下がなびく。やがてそれが「モラルハザード(倫理欠如)」に結びつかないと誰が断言できようか▼いずれ、お二人にはとことん説明責任を果たしていただくほかはない。むろん責任を感じていればこそのことだが。

☆★☆★2010年01月14日付

 普通の民間会社ならとっくに見放されて倒産していたであろうが、日本の航空史上に燦然と光を放つてきたシンボル的存在を、不時着はさせられないという温情が日本航空の命脈を保たせた。だが、現状は延命治療に等しいのではないか▼日航を何とか支えたいという官民ともに抱く思いはまさに過去の栄光があまりにも輝かしいものであったからに違いない。これが他の民間航空だったらここまで政府がテコ入れすることはなかったろう。だが、民営化以後のダッチロール(蛇行飛行)は、元々の甘え構造から脱却出来なかった結果であり、でなければ、経営規模からいっても歴史、伝統からいってもこんなに早く失速するわけがない▼OBたちが涙を飲んで企業年金の減額に応じたのも、ジャパン・エアー・ライン・スピリッツ(精神)がもたらしたものだろう。そこに帰属した誇りである。その誇りが逆に大企業病の病巣となったことも事実だろうが、いずれにしても病状の悪化は想像以上に進んでいた▼日航の債務超過は八千億円超もあり、金融機関に三千五百億円の債権放棄を求める一方、七千億円の債券カットなども予定している。だが「運転資金」も必要だ。法的整理で臨む方針の企業再生支援機構は、日本政策投資銀行の融資と併せて八千億円を手当てする方針だが、焼け石に水という見方もある▼それは抜本的な体質改善なしに栄養剤を補給するような再建策ではすぐ行き詰まるからだ。見栄や虚勢を取り払ってがむしゃらに取り組むべきだが、そのためには過去の栄光など捨て去るべきなのだ。

☆★☆★2010年01月13日付

 民主党の事業仕分けで蓮舫議員から「一位でなければダメなのですか、二位ではダメなのですか」と問われたスーパーコンピューター(スパコン)開発技術だが、円周率のケタ数競争でそのスパコンがなんと普通のパソコンに負けたというのだから、科学者たちが絶句した▼そんな必要性などまったく感じないから小欄の円周率は3・14で止まっているが、果てのないその果てをどこまで計算できるかというのが科学者の夢というか意地だ。そこでコンピューターが発明されて以来、学者たちはどこまで計算ができるか、その「末端」の追求に血眼になっている▼これまでの最高は筑波大学計算科学研究センターが昨年樹立した二兆五千七百六十九億八千三十七万ケタまでだったが、このほどフランス人のデジタルテレビ関連技術者、ファブリス・ベラールさんがありきたりのパソコンを使ってそれを千二百三十億ケタも上回る新記録を打ち立てたという▼二進法による計算に百三日、検算に十三日をかけたというが、その演算時間の差がスパコンとどれだけあったのかはともかく、結果として計算の奥行きではパソコンというよりはファブリスさんの頭脳の方が勝ったというところに、人間が秘めた可能性を知らされる思いだ▼蓮舫さんの質問に対し「スパコン自体の性能は二位でもいいが、使う人間の能力は一位であらねばならない」と答えたら、国内の学者たちから袋だたきに遭いそうだが、機械を使うのは人間だという真理だけは永遠に不滅だろう。

☆★☆★2010年01月12日付

 2020年までに90年比25%の温室効果ガスを削減するという鳩山首相の「国際公約」を耳にした時はその「気っぷの良さ」に驚いたが、この約束がこれから国益に重くのしかかってくることは避けられまい▼京都議定書によって、日本は12年までに90年比6%の温室効果ガス排出量を削減しなければならないが、現在のところ減るどころか逆に増えている。議定書の掲げる目的は崇高だが、その遵守は何かを犠牲にしなければ実行不能だ。米国も、中国はじめ新興国も言を左右にして議定から逃げたのはまさに国益を考えてのことである▼その点、あえて火中の栗を拾うことにした日本の態度は立派だが、その結果今後降りかかる火の粉をどう払っていくか、現実を直視したらめまいがしてくる。もめぬいた「コペンハーゲン合意」の留意や、発展途上国に対し一兆八千億円弱を支援する「鳩山イニシアチブ」の表明などその謙虚さはいい▼だが、25%はおろか、6%だって削減できるかどうか。一度公約したら「あれは努力目標でした」では済まされない仕掛けが地球温暖化対策という大義名分の下ですっかり出来上がってしまっているのだ。目標非達成分は、海外から排出権を買うようになる。そのビジネスで笑いが止まらない国があれば、泣く国がある▼後者の代表がお人好しの某島国だが、よせばいいのにその国の首相自らハードルを高くするというのは宇宙人だからか、それとも金銭感覚などまったく持ち合わせない大金持ちなのかのいずれかだろう。

☆★☆★2010年01月10日付

 年末年始に住居のない失業者に宿泊場所や食事を提供する東京都の公設派遣村で、就活費二万円を支給後二百人あまりが「消えた」ことが判明した。これが現実というものだろう▼開設当初五百六十二人いた利用者のうち七日現在で二百人以上の所在が不明になっていることが都の調査で判明、これが就活費支給後のことだったから、要するに宿泊場所や食事より現金目当ての「駆け込み寺」にされていたことを物語った。その就活費だが、当座の酒やたばこに費消してしまうケースが少なくなく、泥酔して退去を命じられた例もあった▼困った人々に手を差しのべるのはいいが、善意に善意で応えられるだけの余裕を誰もが持っているとは限らない。明日の食事にも事欠けば「ウソも方便」となりかねず、この事態は想定内だった。頭に来て「もうやめた」ということになるのなら、初めから突き放しておけばよかったのである。実際、都には開設に批判的な声が数十件寄せられていたという▼郷土の偉人、後藤新平の「人のお世話にならぬやう、人のお世話はするやう、そして報いを求めぬやう」は、人のあるべき姿を求めた言葉としても、そこには一旦実行した以上苦にせず、悔やむまいという達観が自ずとある▼そこまで悟っていない石原知事はカンカンになったそうだが、人間、施されるよりは施す方に回りたいもので、同時に裏切るより裏切られた方がしあわせというものである。報いを求めたから腹が立つのである。

☆★☆★2010年01月09日付

 陸上であろうと海上であろうと暴走行為は好ましい結果を生まないという事実を示したのが米環境保護団体「シー・シェパード」の捕鯨抗議船「アディ・ギル号」の衝突大破事故だ。これは明らかな自損行為である▼「007」にでも登場しそうな異様な船形を持ったこの快速船が、抗議の新たな戦
列に加わったと報じられて以来、何事もなければいいがと案じていた。反捕鯨というにしては常軌を逸しているこの団体が、日本の調査捕鯨に加えてきた示威行動が「なんでもあり」で、どんどんエスカレートするばかりだったからだ▼農水省は調査捕鯨そのものが攻撃の対象にならないよう一計を案じ、捕鯨団の母船と監視船を振り分ける煙幕作戦を採った。赤松農水相がそう発表したので、味なことをやると感心していたのだが、さすがシェ
パード。嗅覚≠ヘ発達していて双方とも捉えた▼母船には「進路妨害」したが効果はいまいち。そこで監視船の「第2昭南丸」には、三胴で大波もかいくぐれ、しかも快速、そのために一億円以上もの改造費をかけたという
自慢のギル号を充て、ジグザグ航行でいやがらせの限りを尽くしたが、その結果が衝突という誤算。先方は日本の非を挙げるが、暴走が結果を招いたことは自明▼「日豪関係に新たな火種」などと報じた新聞もあるが、反捕鯨という大義名分さえあれば何をしても許されるという非道な行為を国際世論は許してならない。日本政府も大いに弾じるべきである。


| 次のページへ >>