鳩山由紀夫内閣が初めて臨む通常国会が、きのう召集された。政府と民主党にとっては、試行錯誤の「慣らし運転」を終え、「本格稼働」で政権交代の真価を発揮すべき国会である。
しかし、残念ながら、わき立つような使命感や躍動感は伝わってこない。むしろ、この政権をいま覆っているのは、名状しがたい閉塞(へいそく)感と危機感ではないか。
現職国会議員の逮捕へ発展した小沢一郎幹事長の資金管理団体をめぐる「政治とカネ」の問題が、背景にあるのは言うまでもない。
共同通信社の世論調査によると、鳩山内閣の支持率は41・5%に落ち込み、不支持率が44・1%と初めて支持率を上回った。有権者の視線は一段と厳しさを増したとみるべきだ。
政府は、緊急経済対策を盛り込んだ本年度の第2次補正予算案を国会に提出し、菅直人財務相が財政演説で「デフレを克服し、景気回復を確実にするよう取り組んでいく」と表明した。
政府と与党は、この2次補正を今月中に成立させ、首相による初の施政方針演説を行ったうえで、子ども手当や高校授業料の実質無償化など、衆院選マニフェスト(政権公約)の実行を仕込んだ新年度予算の年度内成立を目指す。
これに対して野党は、首相が幹事長続投を命じた小沢氏を「最大の標的」として、首相の個人献金偽装事件を含む「政治とカネ」の問題を国会冒頭から徹底追及する構えだ。
自民党は、小沢氏本人や首相の実母など国会に呼ぶ参考人招致リストを作成しており、首相と小沢氏の政治資金問題に関する集中審議の開催も要求している。
民主党は「参考人招致には一切応じない」とガードを固めており、与野党攻防が激化するのは必至の情勢だという。
「国民生活に直結する予算の一日も早い成立を」と速やかな国会審議を呼び掛ける政府・与党。「国民の政治不信を招く政治資金問題の解明こそ先決」として政権に揺さぶりを掛ける野党-。政権が交代しても「立場が変わっただけで、その主張はそっくり」ではないか。
このうえ、昨年の臨時国会で繰り返された与党の採決強行-野党の審議拒否-国会空転という事態を招くようでは、それこそ「言論の府」の権威と信頼は失墜してしまう。
そんな不毛の対決劇は断じて避けねばならない。「政治とカネ」の問題に関して言えば、野党は独自の調査能力に磨きを掛け、問題の核心に鋭く迫ってほしい。再発防止に向けた政治資金規正法の改正案など問題提起にも期待したい。
与党は、この問題から逃げずに堂々と論戦に応じることだ。首相や小沢氏も、予算審議との駆け引きで野党の要求を渋々のむのではなく、自ら国会に出向いて説明するくらいの気概と見識を見せてほしい。与野党を問わず、政治の自浄能力が試される通常国会である。
=2010/01/19付 西日本新聞朝刊=