西日本新聞

魁皇808勝 見果てぬ「夢」を追い求め

2010年1月13日 10:32 カテゴリー:コラム > 社説

 その姿は、度重なるけがを克服して2215試合連続出場の世界記録を打ち立て、国民栄誉賞を受賞したプロ野球元広島カープの衣笠祥雄さんに重なる。

 大相撲の大関魁皇関(福岡県直方市出身)が、幕内通算勝ち星で808勝を挙げ、千代の富士(元横綱、九重親方)を抜いて史上1位になった。幾多のけがや大関陥落、引退の危機を乗り越え、これまた史上1位を更新する幕内在位99場所目を迎えた初場所で、戦後最年長の37歳の大関が大きな記録を打ち立てたのだ。

 声援を送り続けてきた九州のファンとともに快挙をたたえ、喜びたい。

 赤ヘル黄金期を支えた衣笠さんは負傷しても休まず、試合に出場しては豪快なフルスイングでファンを沸かせて「鉄人」の愛称で親しまれた。腰痛などの持病に長年悩まされた魁皇も、豪快な相撲で白星を積み重ねてきた。まさに角界の「鉄人」ともいえる存在である。

 魁皇は、一世を風靡(ふうび)した若乃花、貴乃花の若貴兄弟や曙と同期で、1988年春場所に初土俵を踏んだ。固くて回らなかった水道の蛇口を無理に回して壊したという逸話が残るほどの怪力で、豪快な上手投げを武器に番付を上げてきた。

 新入幕の93年夏場所は大きく負け越したが、同年の九州場所で再入幕し、2000年9月には大関に昇進した。その地力から横綱候補の1番手と言われたが、ここから我慢の相撲人生が始まる。

 04年秋場所で5回目の優勝を飾ったが、横綱昇進を懸けた同年の九州場所で終盤に優勝争いから脱落、可能性が残った翌場所もけがで途中休場して夢をつかみ損ねた。その後、途中休場、大関かど番、かど番脱出を繰り返すようになり、大関維持がぎりぎりの時期もあった。

 とくに、かど番で迎えた06年春場所は序盤から黒星が先行し、負け越したら引退の決意を固めた。が、7敗から奇跡の復活を遂げ、千秋楽で優勝争いをしていた白鵬に勝って大関の座を守った。

 最近は勝ち越しが精いっぱいの状態が続いていたが、厳しい大相撲の世界で22年にわたり現役で活躍し、9年以上も大関の座を守り続けているのは、やはり日ごろの努力と鍛錬のたまものだろう。

 昨年6月、外国特派員協会で会見した際、外国人記者の「いつ引退するのか」との質問に「いつ、そういう時が来てもおかしくない状況だけど…」と苦笑い。「最後まで自分の豪快な相撲を少しでも取り切りたい」と締めくくった。

 野球やサッカーなどプロスポーツの世界では、40代の選手が現役で活躍している。大相撲とほかのスポーツを単純に比較はできないだろうが、まだ30代の魁皇も老け込む年ではなかろう。

 このままいけば、今年3月の春場所には前人未到の「幕内在位100場所」の大記録にも到達する。見果てぬ夢の「横綱昇進」を追い求めて、これからも一場所でも多く豪快な相撲を取り切り、大相撲の醍醐味(だいごみ)を見せてほしい。


=2010/01/13付 西日本新聞朝刊=

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