西日本新聞

成人の日 竜馬も20歳が転機だった

2010年1月11日 10:08 カテゴリー:コラム > 社説

 「若者よ。日本だけを見て物事を考えるな。世界はとてつもなく広いぜよ」

 ここに立つと、威勢のよい坂本竜馬の声が聞こえてきそうだ。長崎港や市街地を一望できる長崎市の風頭(かざがしら)公園にある竜馬の像。羽織はかまにブーツを履き、腕組みをして海の向こうを見渡す。

 泣き虫少年だった竜馬が江戸で剣術修行を積んでいた19歳の時、浦賀にペリーが来航した。土佐藩から沿岸警備に駆り出された竜馬は、黒船を目の当たりにして衝撃を受けたといわれる。

 20歳になった竜馬は修行を終えて故郷の土佐に戻り、絵師の河田小龍からジョン万次郎の米国体験談を聞く。欧米の進んだ科学技術や政治体制などを知り、大いに触発されたという。そして「世界をもっと知りたい」とも思った。これが時代を超えた国民的英雄の出発点だ。

 今年も約127万人の若者が「成人の日」を迎えた。総務省によると、新成人の数は3年連続で過去最少を更新した。統計を取り始めた1968年以降、初めて130万人を下回ったという。

 世界では「18歳成年」が主流だが、日本では言うまでもなく成人年齢といえば20歳からである。きょうの日を契機に大人になったことを自覚し、希望を胸に自らの力で人生を切り開く思いを新たにした若者も多いことだろう。

 15歳でいまの成人式に当たる元服をしていた時代に生きた竜馬にとって、20歳がどういう意味を持っていたかは知る由もない。だが、世界に目を向ける決心をした20歳の時が、人生の転機となったことは間違いないだろう。

 「わしゃ、学問をしようかと思うちょるんでおじゃりますわい」

 司馬遼太郎著「竜馬がゆく」に、竜馬のこんなせりふがある。江戸の大道場で剣術修行を積んで北辰一刀流の免許皆伝となり、24歳で故郷の土佐に戻った時のことだ。竜馬はこう言い、地元で道場を開くことを勧める兄権平を驚かせる。

 「学問は必要じゃとわかった。古今の書を読み、かつ西洋の書も読みたい。読んで、わしがこの手で、こんな腐った天下をなんとか動かしてくれようと思うちょります」

 司馬遼太郎は竜馬に、こうも言わせている。まさに、この国の若者に送る作者のメッセージでもあったのだろう。

 仇敵(きゅうてき)同士をつなげて討幕運動を加速させた薩長同盟締結、議会政治導入などを説いた船中八策の策定、日本初の株式会社といわれる貿易会社「海援隊」結成など、その後の活躍は言うまでもない。

 新成人が生まれた89年は、国内では元号が「昭和」から「平成」になり、海外も東西ドイツを隔てた「ベルリンの壁」が崩壊した年でもあった。時代の変わり目に生まれた若者たちであることも、何か因縁めいたものを感じる。

 鳩山由紀夫首相は政権交代を「平成維新」と呼んだ。維新から新国家をつくっていくのはきみたちだ。頑張れ新成人。

=2010/01/11付 西日本新聞朝刊=

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