昨年12月25日、米国ではクリスマス気分に冷水を浴びせるような事件が起きた。オランダから米・デトロイトに向かっていた航空機内で、ナイジェリア国籍の23歳の男が、隠し持っていた爆発物を爆発させようとしたのだ。
幸い爆発には至らず、航空機は無事着陸し、男も逮捕、起訴された。しかし、事件は、9・11テロから8年余り過ぎた現在も、米国本土でテロの恐怖が去っていないことを強く印象づけた。
この事件では、イエメンに拠点を置くアルカイダ系の組織「アラビア半島のアルカイダ」が犯行声明を出した。被告がイエメンに滞在して同組織の訓練を受けたことも分かっており、中東の小国イエメンが国際テロ組織の新たな本拠地となりつつある実態が明らかになった。
今月6日、イエメンの首都サヌアでサッカーのアジアカップ予選が行われ、日本代表がイエメン代表に快勝した。このときも会場周辺での厳戒態勢が報じられ、スポーツもテロの脅威と無縁ではない現実を浮き彫りにした。
イエメンはアラブ諸国の中では最貧国に位置し、国民の約半数は1日2ドル未満で暮らす。保守的な部族社会で、中央政府は北部では反政府勢力と、南部では分離独立勢力との戦闘を繰り返しており、政府の統治が地方まで及んでいない。これがテロ組織には好都合となる。
国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者はサウジアラビア人だが、父親がイエメン出身だ。アルカイダとイエメンはつながりが強い。
これまでアルカイダの拠点はアフガニスタンやパキスタンなどが中心だった。だが、両国での掃討を逃れた戦闘員がイエメンに流入し、「隠れ家」となると同時に、国際的なテロの「輸出拠点」化しつつある。イエメン政府当局によると、国内で200―300人のアルカイダ系武装勢力が活動しているという。
新たな国際テロの拠点を、これ以上増やしてはならない。
米国内には米軍部隊のイエメン派遣を促す世論も強い。しかし、オバマ政権はイラク、アフガンに続いてこれ以上戦線を広げたくない事情があり、派遣には慎重とみられる。米国は当面、イエメン政府によるテロ組織掃討作戦を積極支援する方針だ。政府当局は今月、組織の拠点があるシャブワ州などに数千人規模の治安部隊を投入した。米英両国は情報提供や軍事資金援助の増額などで、イエメン政府を後押しする構えだ。
貧しい国では民衆の政府への不満がテロ組織への共感につながりやすい。一方、事件の被告はナイジェリアの富裕層出身で、英国留学中に過激思想に染まった可能性が高い。問題は単純ではない。
英国はイエメン問題を協議する緊急の国際会議を開くよう提案している。テロの温床となる問題国家を立て直し、テロの芽を摘むために何ができるのか。国際社会が知恵を絞らなければならない。
=2010/01/11付 西日本新聞朝刊=