[性犯罪と裁判員]被害者の保護に万全を

2010年1月16日 10時00分

 県内で初めて性犯罪を扱った裁判員裁判の判決が那覇地裁であり、強姦(ごうかん)致傷罪に問われた元海上自衛官(24)に懲役3年執行猶予5年を言い渡した。性犯罪めぐる裁判員裁判では、被害者のプライバシー保護と二次被害防止が最優先されなければならない。今回、被告人が起訴事実を認めたため、審理の焦点は量刑に絞られ、被害者の女性は出廷することはなかった。

 元海上自衛官が2009年6月11日未明、寄港先のうるま市で女性に乱暴しようとしてけがを負わせた事件。検察側は「卑劣、執拗(しつよう)な犯行で悪質だ」として懲役5年を求刑、弁護側は被害弁償しているなどとして懲役3年執行猶予4年が妥当としていた。

 裁判員は男性3人に女性3人。那覇地裁は裁判員選任の段階から人権上のさまざまな配慮をしている。被害者の実名、住所を伏せるのはもちろん、20代女性と幅を持たせている。質問票で被告人や被害者との関係の有無など8項目で接点を確認した。

 那覇地検も選任前に候補者名簿を被害者の女性に見せ、関係者がいないかどうか確認したようだ。法廷では検察、弁護側とも女性を「被害者」と呼んだ。検察側は大型モニターに映した現場周辺の建物の固有名詞を塗りつぶした。被害者のけがの写真は大型モニターの電源を切って傍聴人に示さず、裁判員の小型モニターに切り替えた。

 ただ、裁判員に漏れた候補者に守秘義務はなく、事件の情報が流出する恐れが残る。特に沖縄のような狭い地域社会では直接的にも、間接的にも関係者がいる場合が珍しくなく、二次被害を受けないよう十分な配慮が必要だ。

 最高裁のまとめによると、裁判員裁判が始まった09年5月から同年10月までに裁判員対象の性犯罪事件は2割近くに上る。

 性犯罪の初めての裁判員裁判は09年9月、青森地裁であった。同地裁は、強盗強姦事件の被害女性2人の精神的苦痛を考慮し被告人や傍聴人のいる法廷に出さず、別室でテレビカメラと裁判員のモニターをつないで証言させるビデオリンク方式を採用した。ただ音声を変えなかったため裁判員から改善を指摘された。性犯罪の被害者にとって事件は思い出すのさえ忌まわしく、法廷で一般市民の裁判員に事件そのものを知られたくないのは言うまでもない。

 検察側は犯行の凶悪性を立証するため、生々しい写真などを提示せざるを得ず、それが被害者の精神的負担に拍車を掛ける矛盾を抱える。

 起訴事実を争う事件では被害女性が出廷し証言することは避けられないだろう。法廷で二次被害を受ける可能性が高い裁判員裁判から性犯罪を除くべきだと主張する声は根強い。裁判員裁判を受けるかどうか選択できるような仕組みを提案する専門家もいる。

 今回は被害女性が出廷する必要がない特異な裁判で、課題は最小限にとどまったとみたほうがいい。那覇地裁、那覇地検、弁護人の3者は、問題点がなかったかどうか十分な検証を行い、被害者出廷のケースに備えてもらいたい。


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