日航更生法申請 「視界不良」の離陸だが
日本航空が19日、会社更生法の適用を東京地裁に申請した。企業再生支援機構による支援も決定し、事実上、国の管理下での再建が始まる。
日本では初めての主力航空会社の破綻(はたん)である。負債額も事業会社としては過去最大級だ。その衝撃は時代の大きな曲がり角を感じさせて余りある。
慢性的な赤字経営に2008年来の世界不況による業績の落ち込みが追い打ちをかけた。しかし、何より問われるべきは不振の根本的な原因に向き合わず、最後は国頼みという危機感なき体質であろう。
莫大(ばくだい)な公的資金を投入するからには、確実に再建させる必要がある。計画が頓挫すれば国民負担が増大する。
◆混乱の回避に万全を
政府は再建を全面的に支援する声明を出した。運航に支障が生じないようにするためだ。
他社との共同運航も含めて、就航先の35カ国・地域にも状況を説明し協力を求める。支援機構は燃料などの商取引債権を保護すると公表している。利用客のマイレージも維持される。
混乱を最小限に抑えた運航継続、利用者保護が最優先でなければならないのは当然だ。信頼をこれ以上失えば今後への障害となろう。
基本に据えるべきは、言うまでもなく安全運航への覚悟と態勢だ。
1985年8月の日航ジャンボ機事故の悲劇を忘れてはいけない。520人の犠牲者の無念をあらためて胸に刻み、再生の起点としてほしい。
05年に相次いで発生し、顧客離れにつながった運航トラブルは記憶に新しい。その反省は安全の文化として本当に根付いているか。
安全運航にこれでいいという終わりはない。血の出るような合理化は避けられないが、安全のための適正なコストだけは削れない。一方、安全を盾にした甘えを残してもならない。
◆真の困難はこれから
日航の救済をめぐる動きは迷走した。手法は私的整理から、事前調整型の法的整理へと大きくかじを切った。
法的整理は大胆な債権カットが可能で、手続きの透明性が国民の理解につながり、短期間での再生を見通すことができるとされる。支援機構は3年以内の再建完了を目指している。
更生法申請はその入り口にすぎない。最大の課題とされた企業年金減額問題は退職者の了解で決着したとはいえ、難問は山積している。
事前調整型の再建は国内の巨大企業では初めてであり、その上、準備期間が約2週間と極めて短かった。最終盤まで私的整理にこだわった主力銀行との話し合いも十分とは言い難い。信用不安をいかに抑えるかに意を尽くす必要がある。
日航の債務超過額は8600億円に上る。支援機構が出資する公的資金3千億円と、金融機関の債権放棄3500億円などで解消するという。
子会社を半減させ、グループ社員の約3割に当たる1万5700人を減らす。新たな路線廃止も検討する。
財務を立て直し、コンパクトな形で出直し、収益を上げられる体質をつくる。企業再生の基本に違いないが、事業規模と債務が巨大なだけに一朝一夕にはいかない。全く別の会社につくり直すほどの気概が要る。
日航社員の奮起を求めたい。戦後長くナショナル・フラッグ・キャリアーであり続けた名門の誇りを、この再建にこそ生かすべきだ。
同時に負の遺産は未練なく捨て去らねばならない。親方日の丸的な意識をなくし、顧客第一に徹する。労働組合が八つもある複雑な労使関係は思い切って整理する必要があろう。
過去と決別し、その上で明確な目標に向かって全社員が力を合わせなければ、再建はおぼつかない。
◆航空行政も正念場だ
今回の事態を招いた背景に、日航と行政、政治とのもたれあいの構図があることを重く見る必要がある。戦後長く続いた半官半民の時代の気分を87年の完全民営化後もひきずってきた。そのつけが回ったのだ。
不採算と分かっている空港を建設し、不採算路線を日航が引き受ける。日航にとっても見返りはあっただろう。その間に族議員など政治家が絡む余地が生まれた。
脱官僚依存をうたう新政権が後始末を担うのは皮肉ではあるが、そこに国民の期待もある。
日航の事業再生は官業重視の「戦後体制」に区切りをつけることにもなるからだ。責任は重大である。
政府は再建支援に当たって徹底的な情報公開を心掛けるべきだ。このことなくしては国民の理解は得られない。
京セラの稲盛和夫名誉会長が会長兼最高経営責任者に就任し再建の陣頭指揮を執る。手腕に期待したいが、なぜ稲盛氏なのかを政府は説明していない。これを含め、判断の基準や理由を常に明らかにする姿勢が求められる。
空港、空路政策、自由化時代の世界的な競争の行方を見据えて、新しい航空行政に踏み出さねばならない。