オバマ政権1年 チェンジの旗を掲げ直せ

 「チェンジ(変革)」を訴えるオバマ氏が黒人として初の米国大統領に就任して20日で1年となる。
 熱狂的な国民の歓呼を浴びながら、夫人と一緒にホワイトハウスに向かって歩いた日から、オバマ氏は精力的な活動を続けてきた。
 「核なき世界」を目指すとしたチェコ・プラハでの演説、中東和平への熱意やイスラムとの協力を語ったエジプト・カイロ演説をはじめ、巧みな弁舌で人々の心をとらえてきた。
 そのオバマ氏がいま、米国内で低い支持率にあえいでいる。世界的不況への対応が後手に回っているとの不満のほか、「チェンジ」の足取りがおぼつかなくなっていることを国民が感じ取っているためだろう。
 オバマ氏が大統領選で訴えた変革は反ブッシュ、グリーン(環境)、ヘルスケア(公的医療保険)である。
 だが、自助自立を重んじる米国民の強い反対に遭って公的保険制度の成立は依然微妙な状況にある。景気浮揚策の柱である環境産業育成にしても、成果が出るのは先の話だ。失業率は10%に上っている。
 何より「反ブッシュ」である。大義なきイラク戦争を主導し、兵士や住民らに多大の犠牲を強いたという批判は正しい。問題なのは、オバマ氏がアフガニスタンをテロ戦争の「原点」と位置付け、増派も決めたことだ。
 アフガンには国際テロ組織アルカイダが巣くっており、ここをたたかねばならぬという理屈だ。だがアフガン情勢は泥沼化し、アルカイダの掃討作戦は奏功しているとは言い難い。
 核なき世界に向けた構想と努力、国際紛争解決で対話と交渉を重視、気候変動で建設的な役割-ノーベル委員会がオバマ氏に平和賞を授けた理由だ。これにどう応えていくのか。
 核廃絶を目標に掲げるのは歓迎する。だが米国が世界一の軍事大国の地位を譲ることは考えられない。テロの撲滅は重要だ。しかし、いまの「オバマの戦争」に大義があるのか。米国民のえん戦気分はどこからくるのか。そこに思いをめぐらすべきだろう。
 温室効果ガス排出を抑制する気候変動枠組み条約では腰が引けた対応だった。チェンジはかすんだが、消えたわけではない。オバマ氏は多極化した世界にあって、柔軟に対応できる資質を備える指導者として登場したはずである。従来の米国の単独行動主義と決別するということだ。
 平和賞授賞には「世界によりよい将来への希望を与えた」という期待も込められていた。世界平和に貢献し、地球規模の問題でリーダーシップを発揮する。オバマ氏の責務はますます重い。言葉を裏付ける力量が問われる。

新潟日報2010年1月19日

コンビニ受診 特別料金で解消できるか


 「虫に刺されてかゆい」「平日休めないから」など、軽症なのに夜間や休日の救急病院を安易に利用する「コンビニ受診」が深刻な問題になって久しい。
 中央社会保険医療協議会(中医協)が、2010年度の診療報酬改定の骨子に、救命救急センターを受診した軽症患者からの特別料金徴収を検討することを盛り込んだ。
 病院勤務医の負担を軽減し、重症患者の治療に専念できるようにするのが狙いだ。厚生労働省の案では(1)医師らが診察前に軽症だと確認する(2)その際の受診には特別料金がかかることを患者に伝える-などの条件を満たした場合に限り、保険診療とは別の費用を求めることができる。
 国民の新たな負担となるだけに、慎重に議論を進めたい。
 救急搬送の約半分は軽症患者が占めている。このため重症患者の対応が遅れるといった支障が出ている。急増するコンビニ受診は、医師不足と合わせて、地域医療を疲弊させている元凶にもなっている。
 だが、導入にはクリアしなければならない課題も多い。軽症と重症を分ける線をどこに引くのか。
 自分で軽症だと判断して、救急車を呼ぶのを控え、その結果、治療が遅れ、重症化してしまうケースも考えられる。中医協のメンバーからは「患者の選別につながる」「患者自身に症状を判断させていいのか」などと反対意見も出ている。
 特別料金さえ払えば、夜間でも診察してもらえるという意識を患者に植え付ける心配がある。それでは、制度の趣旨に反する。患者に対する制度の周知徹底が不十分だと、病院側とトラブルを起こしかねない。
 コンビニ受診は、特別料金の導入だけで解決できる問題ではあるまい。地域医療をどう再生するかという視点で取り組むべき課題だろう。
 県内では、柏崎市の刈羽郡総合病院内で地元医師会などが協力して、急患センターを開設、勤務医の負担軽減に効果を上げている。診察の前に看護師が急患かどうか見極める方法も取り入れ、軽症患者の診察が減った。
 兵庫県丹波市では、小児医療の崩壊を防ごうと、母親たちが「コンビニ受診を控えましょう」と呼び掛ける活動が定着している。どの程度の症状だったら子どもを救急外来に連れていくべきかなど、チェック項目を盛り込んだパンフレットを作製し、小児科の時間外受診者を激減させた。
 これらの実例は、コンビニ受診の解消には病院、開業医、住民の連携が欠かせないということを示している。こうした活動を後押しすることが急務だ。国や自治体の役割もそこにある。

新潟日報2010年1月19日